友人←何よりも大切な
相沢くんとは学年が違うので階段の前で別れ、気の弱い人なら即死するであろう殺意の嵐を掻い潜って教室まで辿り着いた私は、誰に挨拶することもなくされることもなく席に着きました。孤独です。
思えば、今までの人生においてまともな友達がいた記憶なんてほぼ無いですね。
一瞬、『友達になれるかな?』と思えたとしても、モハの幼馴染だと知って距離を置かれたり、または変な嫉みを持たれてしまったりで上手くいったためしがありません。
モハとは別の高校に入学し、普通にしていれば友達だって出来るはずと甘い期待をしていたところに例のモテモテ(笑)状態。遠巻きにされたり、嫉み通り越して憎悪や悪意を持たれたりと……
友達とか出来るわけがないですね。
それでも稀にですが、友好的に話しかけて来てくれる女の子もいたんですよ。
あわよくば、モハまたは逆ハー(笑)構成員の彼らに近づけるかもという微笑ましい理由から。
ですが、気付くと今まで以上に避けられるようになってるんですよね……
モハめ……。そういう余計な気はまわさなくて良いのですが。こちとら下心ありでも全然構わないくらいには「友達」に飢えてんですよ。
良いですよ内心どう思ってたって。ヤツと違って読心術が使えるわけでなし。表面上だけの友情? 少なくとも仲良くしようとしてはくれてるんだから良いじゃないですか。
ひっそり拳を震わせていると、携帯が小さくメロディーを鳴らしてメールの着信を知らせてくれました。
有名なクラシックの曲をポップにアレンジしたそれに、ささくれ立っていた心がすうっと癒されるのを感じながら携帯を開きます。
『From日羽 友人
Sub何かあったか』
本文すらない短いメールに、ふっと頬が緩みました。
『To 日羽 友人
Subおはよう
ん?
特に何もないと思うけど』
記憶を振り返っても特に「何か」があった覚えは無いので、そう返信しました。
『From日羽 友人
Sub Re:おはよう
朝……
あいつと歩いてんの
見たから。
何もないなら良い』
少し間を空けて帰ってきたメールを見た瞬間、じんわりと胸に温かいものが込上げて来ました。
今の私はさぞ緩みきった表情をしている事でしょう。
モハと歩いている姿を見て、心配してくれる人が居るという事が何よりも嬉しいのですよ。
アレと共に居る事を『私にとって良くない事』として捉えてくれる人のなんと希少な事か。
『To 日羽 友人
Subあぁ
大丈夫だよ。
心配してくれてありがと』
送ると同時にそれとなく視線を向けると、日羽友人――トモはメールを確認した瞬間、むうっと唇を引き結び、眉をしかめました。一見機嫌が悪そうに見えますが、この表情はトモが照れている時の癖です。
その反応にニヤけていると、横目で睨まれてしまいました。
トモは幼馴染です。
もう一人の呼び名が「モハ」という中途半端な部分をとったものなのは、「トモ」が先に居たからなのですよ。ちなみに、我がお婆様が「ハル」という名前だったので後ろ二文字も気分的に不可でした。
このモハという呼び方、気が抜ける響きだとか彼には似合わないだとか周りからは頗る不評なのですが、私は気に入っています。良いじゃないですかモハ。ちょっと間抜けで。
っと、そんな事はどうでも良いですね。
トモの話をいたしましょう。
家が隣で親が同級生どうし、同じ月に同じ病院で生まれ、幼稚園から高校まで同じクラスという驚きの縁を持つ私たちですが、直接言葉を交わす事は今ではめったにありません。小学校低学年の頃までは毎日一緒に遊んでたんですが……まあ、色々ありまして。
今でも仲は良いですし、多分、一番私の事を分かってくれてるのはトモです。
だからこそ、この距離なんですよね。
だって、近くにいれば強制的にトモまで厄介事に巻き込む事になって……巻き込まれて当事者になってしまえば、私を気遣う余裕なんて無くなってしまいますから。
実際、モハと行動を共にしていた……いや、させられていた時のトモは余裕が無いなんてものじゃありませんでしたし。こう言ってはあれですが、もう憐れ過ぎて見ていられないくらいでした。
恐らく、モハもさすがにこれ以上振り回したらトモが壊れると気付いたんでしょうね。いつと明確には記憶していませんが、気付くとトモとは距離を置くようになっていました。
どうせなら私とも距離を置いて欲しかったのですが、残念ながら未だに縁は切れておりません。
幸か不幸か……いや不幸ですね。確実に不幸な事に、私はトモよりも適応力が高かったのが敗因なのでしょう。
大きいのは性別の違いなんじゃないかと思っています。男性よりも女性の方が精神的な成熟も早く、いざという時は女性の方が強いと聞きますし……それに、同じようにモハの側にいても、異性と同性では、周りからの視線や対応も違っていたでしょうしね。
私以上に苦労していたのではないでしょうか。同性である分、感じる劣等感も私より大きかったのかもしれません……
嗚呼もう、モハから離れられて本当に良かったですね!
トモは、自分だけが解放された事を心苦しく思っているみたいですが……そうやって気にしてもらえるだけで十分です。
だからどうか安全な場所で心穏やかに過ごしていてくださいね。
平穏であれ。私のために。