第80話 ひとりでは何もできない
キャンペーンを張る前に決めることは無数にある。
まず、チームの名前だ。
「冒険者の靴製造販売チーム」では、いかにも烏合の衆めいている。
もう、会社にしてしまおう。世界初の株式会社だ。
今のところ、持ち株は現物支給の靴1000足でしかないが、いずれ実態が追いつく日も来るはずだ。
ザ・カンパニーではCIAの組織めいて恥ずかしいので、社名は製品名から取ることにする。
製品名を決定しなければならない。
これは、宣伝時に実際に履く剣牙の兵団に相談に行った方がいいだろう。
冒険者という連中は、人から言われることには反発するが、自分で決めたことなら死んでも守る部分もある。
自分達で決めた名称なら、愛着を持って言われずとも広めてくれるに違いない。
次にチームを組んで具体的に人員を充てていく必要がある。
現代世界なら、最初に靴のブランド・マネージャーを決める。
他に人がいない以上、俺がその役割を引き受ける。
サラにはアシスタントと渉外をやってもらおう。
仕事を見て覚えて欲しいし、一緒に行動しないと身の危険もある。
技術担当は、革通りからオッサンを引き抜いてきたい。
特に、踵と靴底を担当したオッサンは、こちらで囲い込む必要がある。
今なら剣牙の兵団の武力で脅す手も使えるが、それは最後の手段にしたい。
製造担当は、今はいないから俺がやる。
3等街区の靴屋を回り、儲かってなさそうな連中をまとめて雇用する予定だ。
修理はしばらく社内だけでまわしたい。どこが痛んだ、壊れたというのは重要な製品改良のための情報だからだ。
広報宣伝だが、剣牙の兵団のパフォーマンスを仕切っていた人間を探したい。
俺は直接見ていないが、相当にうまくやった奴がいるはずだ。
雇用は無理だろうが、期限付きでチームに加えたい。
これで、大体の役割は充てたはずだ。
まあ、実際のところは俺が走り回ることになるだろう。
ジルボアとグールジンへの報告だが、今の段階で定期的な取締役会を開くのはあきらめた。
そういう概念がない連中に、突然、俺が偉そうに開催を宣言したところで現業を優先されるのが目に見えている。
特に、グールジンなどが面倒くさがって会議を欠席する姿が目に見えるようだ。
ジルボアだって団を売るために暇じゃない。遠征や急な依頼も多い。定期的な開催など望めない。
そうして有名無実化する空しい会議をするぐらいなら、同じ街内なのだから、俺が小まめに顔を出した方がいい。
今は何が起きていて、何をして欲しいのか。
情報収集と伝達役は、文字が読めず通信手段も限られた、この世界では人に頼るのが最も効率が良い。
俺が直接足を運ぶことで、彼らの面子も立つことだろう。
事業を成功させるためだ、自分の面子など、どうでもいい。
現代世界でもしばしば使った手だが、人や組織を変えるのは第3者からの情報である。
内部の俺が何を言っても気にしないが、余所から聞いてくる情報にはしばしば影響されるのは、人間の性質の面白い点だ。
剣牙の兵団に影響を与えるには冒険者から情報を流し、街間商人に影響を与えるには、他の街間商人に情報を流せばいいだろう。
何か、全員が熱狂できるようなキャンペーンがやりたいところだ。
仕方ないことだが、靴は、最初は高額商品にせざるを得ない。俺が製造権を握っているので、いずれ原価を引き下げてみせるが、今はまだ無理だ。駆け出し向けの製品は出せない。
だが、駆け出し冒険者にも希望は持たせたい。いつかは、自分もあの靴を履くのだ、と。
そこまで考えを進めれば、企画はいくつか思いつく。
駆け出し冒険者の気持ちがよくわかっている、サラと相談するか。
チームを育てるには、まず自分と自分の周囲から変わらなければいけない。
俺も、いつまでも1人で全てを抱え込むにはいかないのだ。
靴の名前への多数の応募ありがとうございました。本日24:00を以って、一旦示締めさせていただきます。最終集計は活動報告にて報告いたします。
明日の更新は18:00です。22:00も更新できると思います。




