第760話 計画の道具
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「しかし、何とも大きな計画になりますね」
とクラウディオが黒板に書かれた構想を見渡して言う。
「そうだな」
教会と通りだけであったはずの計画が、今や宗教的な門前街であり、商業都市でありさらに防衛的な機能を持つ城塞であり、さらに高級住宅地の機能を持つというのだから。
これはもはや単なる区画造成計画ではない。都市の外にもう一つの都市を作り出す都市計画である、と言っても良いだろう。
「これだけの計画を我々だけで立てることができるのでしょうか?」
道を造る監督をできる人間はいる。教会を建てられる人間もいる。店舗を建てることのできる人間もいるし、住宅を建てることのできる人間もいるだろう。
しかし、全体の計画を立てることのできる人間は果たしているだろうか。
ざっと考えるだけでも、道路、教会、下水道、店舗、住宅という複数の種類の建築が入り交じる区画の計画群を有機的、連続的に機能させるだけのマネジメントを誰が行えるというのか。
「そんなの、小団長しかいないじゃろ」
「そうよね」
「ねー」
率直な面子を集めただけあって、発言に遠慮がない。
しかし俺だってそんな計画を立てたことはない。
一縷の望みをかけて、多くの専門家を揃えているであろう組織の代表に
「そっちの方から人は出せないか・・・?」
と聞いてみたが「無理です」と若い聖職者にはにべもなく断られた。
やはり教会から人を出すのは難しいか。
頼られるのは嬉しいが、これだけの巨大計画を一人で考えるのは無理がある。
そもそも、元の世界でも複数の専門家がチームを組んで計画を立案するような内容なのだ。
しかも計画の補助となるコンピューターソフトもなければ原価を計算できるエクセルもない。
およその方針を元に適当に数字をいじって何となく線を引く、という類の抽象的な計画能力を持つ優秀な官僚的人材は極めて限られている上に、教会や貴族、さらには王家の上層部で独占しているだろうから、こちらに回ってくるとは思えない
人的資源がないのだから、手元で作り出さなければならない。
とはいえ教育する時間も資源もない。
ということは、一人で計画の全てを抱え込んで羊皮紙の山に埋もれて死ぬような羽目になりたくなければ、ここにいる連中を計画に巻き込むアナログな道具を開発しなければならない、ということである。
幸い、ツールのアイディアはある。
「少し準備の時間が欲しい。ゴルゴゴ、手伝ってくれ」
気がつけば日も傾きかけている。
と、いうわけで長く続いた議論はいったん切り上げて区画の造成計画の話は翌日に延ばされることになった。
長引く議論で少し遅くなったせいか、職人達の食事はすっかり片づけられており、夕食は残り物のスープとパンを事務所のストーブで温めてとることにした。
「何だか2人だけでご飯食べるのも久しぶりね」
サラが白いパンを千切りつつ、肉の入ったスープに浸す。
「まあな。厳密に2人きりとも言えないが」
少しは広くなったとはいえ相変わらず住居は事務所と兼用だし、その事務所は靴工房の2階にある。ほとんどの職人達は帰ったが入り口は剣牙の兵団の連中が警備をしているし、工房の中庭で投石杖を使った的当てゲームに興じている連中もいる。
「あの遊び、石が壁にコツンコツンと当たる音が煩いんだよな」
「そうね。でも流行ってるのに止めたら可哀想だし」
「まあ、男どもは石投げが好きなもんだ。仕方ない」
元々は革通りの自衛力を高めるために、職人達に与えた投石杖を利用した遊びであったが、道楽に飢えた職人達には思いの外受ける遊戯だったようで、今では昼の休みだけでなくこうして仕事が終わった後にも懸命に修練を積んでいるのだ。
警備上の問題で工房の中庭は夜遅くまで明かりを灯しているし、職人には若い連中も多いから元気を持て余している、ということもあるだろう。
聖靴通りが城塞都市として機能するようになると、彼らも防衛戦力として頭数に入れられるようになるのかもしれない。
無邪気に石投げをしているだけの一介の職人が戦力になることがいいことなのか、俺にはよくわからない。
ただ、街の片隅に押し込められて踏みにじられるだけでなくなった者達の喜びと誇りが石が壁に当たるときの強い響きから感じられる気はした。
翌朝、説明の続きを聞くために集められた面子の前には、様々な数値が白墨によって書かれた黒板に加えて、俺がゴルゴゴを酷使して用意した大量の四角い立方体が積み上げられていた。
「小団長、なんだいこりゃあ。積み木で遊ぶにはちっと年がいった連中が多いと思いますが」
「いい点をつくな、キリク。まさに積み木だ。これから全員で積み木を作ってもらうために用意したんだ」
キリクだけでなく、集められた全員が「また始まった・・・」と奇人を見るような目で俺を見つめていた。
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