第76話 3者会談
2等街区にある剣牙の兵団の事務所の団長室では、3人の男達による会談が行われていた。
1人は、一流クランの団長であり、最強のクランを育て上げた伝説の男ジルボア
1人は、大手街間商人のリーダー、1台の馬車から財産を築き上げた立志伝中の男グールジン
1人は、元冒険者のタダの人、ケンジ、つまり俺である。
一人だけ、肩書の重みが紙のように軽い。
それでも、事業の成功と生命の安全のためには、俺が、この場を仕切らなければならない。
持たざる者は、常に蛮勇を発揮しなければ何もつかめないのだ。
「靴の利権を、この席で分けようと思う」
俺は率直に切り出した。こいつら相手に事業の意義や計画を話しても仕方ない。
必要なのは結論と、結果だけ。つまり、これをしてくれ、そうすれば利益がある、ということだ。
「期待する役割は2つ。事業の安全を守ること。事業の利益を守ること。そうすれば、全員が利益を得ることができる」
そうして2人と視線を合わせる。自分では精一杯の強い視線のつもりだったが、迫力は全く足りないらしい。つまらなそうな顔で先を続けるように促される。
「最初に剣牙の兵団に靴を支給する。100足の特別製だ。その靴を全員が履いて、いつもの街宣式を派手にやってもらいたい」
ジルボアが頷く。
「ある程度、評判が上がるまで次の販売は控える。その間に、こちらで靴を大量に生産する。生産したものから、グールジンに捌ける量を卸していく」
グールジンが頷く。
「残りの販売権は、俺が管理する。ただし、利益は2人にも分ける。この街で販売を妨害されるようなら、在庫としてキープしグールジンが次に捌ける機会を待つ」
これには、2人とも異論があるようだ。
ジルボアが言う。
「どうやって利益を分けるんだ」
グールジンも言う。
「お前がつける帳簿が正しいと、誰が証明するんだ」
俺は懐から、靴を象った宝飾品を幾つか取り出して話す。
「俺達はチームになる。事業の安全と利益を守るには、チーム内で疑心暗鬼があってはならない。だから、ルールを決めようと思う。お互いを信頼し、利益を適正に配分するためのルールだ。
ルールを決めることに異存はあるか?」
これで「ルールなんていらねえ!俺にぜんぶよこせ!!」という馬鹿だったらチームはこの場で解散だ。
利権を狙う連中の手を掻い潜って、別のチームを立ち上げないとならない。
ジルボアもグールジンも、その種の短絡的な馬鹿でなくて助かった。
油断も隙もない連中だが、少なくとも鵞鳥は太らせてから食う程度の常識はあるようだ。
さて、いよいよ正念場だ。
俺は喋り過ぎて乾いた唇を軽くなめた。
次は20:00にあげます。




