第751話 祭りのネタは果てしなく
発売中のコンプエース5月号に異世界コンサル株式会社のコミカライズが、一挙に4話(1~3+1)掲載されています!また来月以降も順次、新話が掲載です
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開催するイベントを定義して、必要となる街の建造物のレイアウトや建物の構造を決めていく、というアプローチが全員に理解されたところで、次にイベントを網羅していく。
「さて、どんなイベントを行うか、だが・・・」
ざっとした分類を粗い順に挙げて黒板に書いていく。
・年間のイベント
・季節のイベント
・月のイベント
・週のイベント
分類を書いてみて思ったが、俺はほとんどこの世界のイベントを知らない。
冒険者という生誕名簿で管理される市民の庇護から外れていたということもあるし、農民でもないので農村の祭りにも参加できなかった。
ときおり怪物の駆除を引き受けた際に農村の祭りへ参加することもあったが、基本的に冒険者は武装した根無し草の余所者であり村人たちからは距離を取られていたように思う。
「とりあえず知っている祭りをひたすら挙げてみてくれ」
新しい区画で実施できるか、実施すべきかを判断する前にとりあえず挙げる。
「聖者の靴の納品パレードを週に1度はやりたいな」
「少し頻度が高くないでしょうか。こんな言い方をしては何ですが有り難みが薄れませんか」
回数が多すぎるだろうか。ネズミの国のようにパレードが毎日実施される場所から来た俺には、そのあたりの「適切な頻度」の感覚がよくわからない。
「枢機卿に納めるものと、大司教以下の聖職者に納めるもので規模に差をつけては?」
「それにしても、普通のパレードは年に1度です」
祭りであれば準備も必要となるし年に1度が限界か・・・。
しかし、それは村人が普段の仕事をする傍らで準備をする場合の話だ。
「この祭りは参加の準備をする必要は少ない。教会の方々は衣装を揃えて荷車を引くだけだし、花びらは仕入れて売るだけだ。参列の人を並ばせる警備員は・・・そうか、うちで出さないとならないのか」
やはり警備員の直接雇用は必要になりそうだ。
暴力集団を雇い、街の祭りというイベントを仕切る商売への進出か。
ますますヤのつく商売の首魁というセルフイメージが加速する。
そのうち白いコートにやたら長いマフラーをするようになるのだろうか。
キリクが手を挙げる。
「兵団の出陣式と凱旋式はやりたいですね」
「確かに」
アンヌが演出を担当した2等街区の広場で行われる剣牙の兵団の儀式は、今でも街の市民達に人気のイベントコンテンツだ。
そのイベントを新しい区画で実施できるとなると、市民の集客と誘導の効果が期待できる。
それに、剣牙の兵団との結びつきを周囲に示すことは治安上も大きなメリットがある。
聖職者の権威と剣牙の兵団の武力との双方を同時に敵に回したい連中は少ない。
この街には皆無と言って良いだろう。
それに、あの見てくれの良いジルボアが、この新しく作られる街の広場の中心で真面目くさった顔をしつつ剣を掲げる姿を観てみたいのだ。
街の若い娘達が、さぞや黄色い声援を浴びせることだろう。
他にも他の面子から様々な意見があがってきた。
神書の生誕祭、収穫祭、仕事始めの見本市、春のあたりは俺にもわかったが、聞いてもよく知らない聖人の生誕祭、竈の火を称える祭、肉の日、小麦とパンの日、あたりまで来ると何がなにやら、である。
とりあえず、黒板が真っ白になるまで意見が挙がるたびに書き殴ってみた。
「多いな・・・」
「そうね、知らないお祭りがいっぱい!」
嬉しそうなサラの言葉で気がついた。
城壁の外に魔物がうろつく世界では当たり前のことだが、普通の市民や農民はほとんど旅をしない。
ということは、祭りは自分が所属するコミュニティのごく狭い範囲で行われるものであって、農村の農民は地元の祭りしか知らないし、街の人間も職業や地域に根付いた狭い祭りしか一生の間に体験しない、ということである。
祭りの数が多いのは当たり前だ。
ここにいる社会的にも地理的にも様々な面子が自分たちの知っている限りの祭りを挙げたのだから、普通の人々が一生に体験する以上の種類の祭りが集まった、ということになる。
「これは、かなり魅力的な企画になるんじゃないか・・・」
非日常感の演出として、他の地域や職業の祭り以上に優れたコンテンツはちょっと思いつかない。
街の市民が体験したことのない祭りを毎日のように用意するだけにとどまらず、祭りを豪華に飾りたてる建造物や見物に適した観覧席、さらに祭りに合わせた食事やビールも用意する。演出に優れた人材もいる。
これは・・・勝てる商売だ。
ビジネスの予感に密かに拳を握りしめていると、赤毛の娘が「朝市でお肉も買いたーい」などと気の抜けることを言った。
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