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第75話 儲け話

グールジンが定宿にしている建物は、薄暗く汚れた印象が強かった。


ただ、商売上の秘密を取り扱うのに便利な小部屋が幾つか設けられており、俺達はその一室へと案内された。


「で、だ。儲け話ってのはなんだ」


グールジンが問う。


「こいつだよ。魔法の靴さ。藪へ踏み込んで毒蛇に噛まれることもない、泥の坂道でも滑らない、尖った岩場で足を傷つけることもない、そして一晩中歩いても靴擦れを起こさない、正真正銘、冒険者と街道商人のための靴さ」


「ふうん?何だか妙に靴底が厚いな。なんの素材だ?ブーツ・・・に見えて紐がある?長さも足首まで?何だか妙な靴だな。魔法は・・・感じられないな」


 魔法の有無が見てわかるのか。まあ魔法の物品は何となくオーラのようなものを帯びているというが。

 強いオーラになると俺でもわかるのだが、弱い魔力や特殊な魔力になると専門職まほうつかいの技能と触媒が必要になる。

 グールジンは、商売の関係で幾つも魔法の物品を見てきたせいで目が肥えているのだろう。


「ちょっと、履いてみな」


ニヤニヤしながら、スイベリーが言う。

俺は靴下を履かせた上で、グールジンに試作品の冒険者の靴を履かせてやった。


グールジンは狭い部屋を歩き回りながら、興奮して話しだした。


「お?なんだこりゃ。靴底に絨毯が敷いてやがる!足ににかわでもついてんのか?靴底は・・・」


そういうと、グールジンは部屋の家具の足を、思い切り靴で踏んだ。


「ほう!痛くねえ!それに足首まであるからじれたりしねえ!」


「つま先に丈夫な皮が張ってあってな、石を蹴っても痛くねえぜ」


 スイベリーが余計なことを言うや、ガンっと音がしてグールジンはテーブルの足を蹴飛ばした。


「痛くねえ!へえ!これだけ歩きやすくて、足にもいい!確かにこいつは魔法の靴だ!幾らだ!?銀貨2枚ぐらいか?」


「いや、もっと安く作る。俺は、この靴を全ての冒険者と街間商人に履かせたいんだ」


グールジンはキョトン、としてスイベリーを見る。


「おい、こいつ本気なのか?」


「どうも本気らしい。うちの団長も呆れてるよ。だが、本気らしい」


ふうむ、と唸り、グールジンは腕を組んでどっかりと椅子に座り込んだ。


「あんた等には格安で、この靴をおろす。剣牙の兵団にも卸す。それを余所よその街で売る権利を渡す。それが儲け話だ」


「どのくらい作れる?」


「まずは年間で1000足。次の年には2000足。その次の年にどのくらいになるかは、お前さんの売る手腕次第だ」


「最低でも銀貨2000枚か・・・大商おおあきないだな。で、お前のとこの団長はどう絡むんだ」


スイベリーは腰に下げた魔剣の柄を叩いて言う。


「用心棒だよ。ケンジは、腕の方はからきしなんでな」


からきし、ということはない。俺だって5年間も中堅の冒険者で剣士をやっていた。こいつらが強すぎるんだ。


「なるほど、ケンジが作る。剣牙の兵団が守る。隊商おれたちが売る。そういうことだな?」


グールジンも儲け話に関しては頭がまわる。そうでなければ、隊商のリーダーはできない。


「そうだ。その形を作れば、最悪、この街から出て行っても商売ができる。なにせ、作り方と素材は、俺の頭の中にしかないからな」


俺は自分の頭を指さして、グールジンに話しかける。


「モノがあればバラして粗悪品を作れる奴はいるだろうさ。だが、俺は安く最高品質の靴が作れる。剣牙の兵団が、それを履いて凄さをアピールする。その凄い魔法の靴を、お前さんが売るんだ」


「悪くねえ。悪くねえ話だが、断ったら?」


団長ジルボアといい、グールジンといい、とりあえず相手を試さずにいられないらしい。


「お前さんは儲け話を逃して、余所の隊商に話を持っていくだけだよ」


グールジンは頭をボリボリと掻きながらニヤリと笑う。


「まあ、そう怒るな。言ってみただけだよ」


それが透けて見えるから、不機嫌になるのだ。


「で、売りは独占させてもらえんのかい?」


「お前のところに優先権はある。だが、捌ききれない可能性もあるだろ?」


まったく、油断も隙もない。だが、そのくらい目端が利かなければチームに加えるのは危うい。


「とりあえず、この儲け話に乗るんなら、一緒に剣牙の兵団の事務所まで来てくれ。そこで詳しい話をする」


とにかく、隊商に荷物を取り扱わせることには成功した。


あと、もう一勝負が待っている。

明日も18:00に更新します。

それ以上は、余裕があれば更新します。

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