第737話:綺麗な道路を敷こう。ついでに教会も。
コンプエース11月号(26日発売)に、異世界コンサル株式会社の第3話が掲載されました。
3話集中連載の3話目です。Webでも掲載されています。リンク等は活動報告をご覧ください。
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教会の協力を得て道を敷く。すると、道が広く綺麗になる。
「はあ・・・」
「えっと・・・はい」
「それって、靴工房がやることなんですか?」
道路工事を始めれば、工房の業務にも様々な影響がでることが予想される。
というわけで靴工房の主だった者達を集めて道路整備計画を説明したところ、職人達から返ってきたのは無関心と困惑だった。
「道があまり良くなったら、靴工房の靴が売れなくなりませんか」
などと言う者もいた。
「もう!なんでわからないの!!」
などとサラはお冠だったが、むしろ職人達の反応の方が普通なのだろう。
人間、見たことや体験したことがないものを具体的にイメージすることは難しいものだ。
「ケンジったら、何で笑ってるの!」
「笑ってる・・・?」
サラに言われて表情を意識すると、確かに口角があがっている。
(そうか、俺は楽しいのか)
この感覚は久しぶりだ。
「サラと一緒に、試作の靴だけを片手に工房の立ち上げに走り回っていたころを思い出してたんだ」
「ああ、そうね。あの時は大変だったわね。ケンジったら、言うことは難しいし、ほんと無愛想で・・・」
「あの時は金もない上に命もかかってたし、とにかく余裕がなかったからな」
最初の靴工房の立ち上げは苦労したものだ。
何しろ、職人たちは半端者の若い職人の寄せ集めに過ぎなかったし、靴の作り方も彼らには全く馴染みのない道具であり、管理方式だった。
そもそもの常識が違うので、とにかく説明と説得に時間がかかった憶えがある。
なぜ靴を一人で作ってはいけないのか、この道具は何か、なぜ掃除をしなければいけないのか等々・・・。
一つ一つの当たり前だと思っていた動作の根拠や道具の使い方、保管の仕方を繰り返し根気よく説明し、ときどきの職人達の技量や知識に応じて仕組みを作っていった。
今では、若い職人達もすっかり靴工房のやり方に熟練し、毎日大量の靴を造り、送り出している。
自慢の従業員達だ。
だが、そうした実績があっても新しい考え方の受容は難しいものらしい。
ふと気がついたことがあって、職人たちに聞いてみた。
「この中で2等街区に行ったことがある者は?」
職人たちの中で3分の2ぐらいの人数が手を挙げた。
「雨の日に2等街区を歩いたことがある者は?」
続けて問うと、上げられていた手は半分になった。
職人達は雨が降っても道が泥濘にならない快適さ、という体験をしたことがないのだ。
考えてみれば、靴工房の職人達の仕事場も家も3等街区にある。
その意味するところは、街の祭りや冠婚葬祭のような行事をのぞき、彼らの生活はごく狭い範囲で完結している、ということだ。
俺や剣牙の兵団のように冒険者あがりの連中のように、街や街区を自由に出入りする暮らしをしている者達の方が例外なのである。
一方で、革通りの道路を綺麗に工事する意義についての説得は簡単だった。
というより、彼らは説得される必要すらなく、熱狂したのである。
「枢機卿に納入した靴の実績が認められ、革通りの入口に新しく教会を建設していただく運びとなった」
そう口にしただけで、職人達は目の色を変え、口々に快哉を叫びだした。
「・・・その準備の一環として道を整えるよう依頼があった」という俺の説明などもはや誰も聞いていない。
「教会が建てられるだって!!」
「すごい・・・なんて名誉なことだろう」
「枢機卿様が・・・」
「これは親父にも知らせないと」
「新しく来られる司祭様は、どなたになられるんだろう・・・」
信仰心の薄い罰当たりな人間としては、職人達熱狂的な反応に困惑するばかりである。
「・・・なんだ、これ」
半ば呆然としていた自分の疑問を解消してくれたのは、同席していた聖職者のクラウディオである。
「彼らが喜ぶのも無理はありません。小団長、あなたは新たな教区を作られたのですよ」
教区を作った?
確かに「教会を建設して欲しい」とは要請したが、そこまで大それた要求は出していないのだが。
「新たな教会が枢機卿の名の元に建設されるのです。それも、従来は都市の厄介者として外壁の外れに追いやられていた者達のための教会です。いわば彼らの仕事と生き方が、神と教会に認められた証なのです」
続いて語られた若い聖職者の解説に、頭が痛くなってきた。
交番でも建てておけば犯罪が減るだろう、程度の意味合いで要請したことが、聖人の秘跡でも建設する勢いになっているじゃないか。
気のせいか、ニコロ司祭の特徴的な笑い声が聞こえた気がした。
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