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異世界コンサル株式会社(旧題:冒険者パーティーの経営を支援します!!)  作者: ダイスケ
▼再開:第四十章 街に戻って経営管理の仕組みを作ります
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第735話:小さな夢と花の香り

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2等街区の門から革通りまで、簡単に歩測しつつ帰ることにした。

門から革通りまでの道のりが真っ直ぐになった際の距離を簡単にイメージするためだ。


「84歩進み、右折・・・36歩進んで左・・・」


が、すぐに断念する。


「ダメだ、素人の手には負えないな」


そもそも道が真っ直ぐとは限らず緩やかに曲がっていたり、曲がり角の角度が正確に計算できなかったり。

道路や都市計画なく広がった市街地なのだから当然と言えば当然かもしれない。


ひょっとして正確な3等街区の地図を持っている組織などないのではなかろうか。

教会から派遣される技術者に期待したいところだ。


「何してるの?」


ひとりでブツブツと下を向いて歩いているのが不思議だったのだろうか。

サラの目が冷たい。


これは・・・一応説明しておいた方がいいか。


「あの門から靴工房まで、真っ直ぐに道を通せないかな、と思っていたのさ」


「まっすぐって・・・まっすぐ?」


「そう、真っ直ぐ」


サラは門を振り返ってから、建物の陰に隠れた革通りの方向を見つめた。


「途中に、たくさんお店とかお家があるじゃない」


「あるな」


「じゃあ、どうするの?」


「退いてもらう」


「ケンジったら、冗談ばっかり・・・って、冗談じゃないの?」


「ああ」


「だって・・・・そうしたら、今の場所に住んでるおじさんやおばちゃんはどうなっちゃうのよ!」


突然、サラが爆発した。


周囲を歩いていた人が大声に思わず振り返るが、キリクに一瞥されると関わり合いにならぬよう足早に通り過ぎる。

まあ、俺の今日の服装も多少は貴族らしくはあるわけで、物騒な痴話喧嘩に3等街区の住民は巻き込まれたくなかろう。


「落ち着け、まだ、今はただの案だ。それに住んでいる人にも損のない話だから」


「・・・ほんとに?お貴族様みたいに、乱暴なことしない?」


「ああ、約束する」


物語の貴族のように、住人を気まぐれで蹴散らすようなことができるわけがない。

そもそも、一介の工房主で代官に過ぎない俺に、そんな権力などない。


どうもサラは、俺の代官という身分を高く見過ぎる部分がある。


「だいたい、暴力沙汰は嫌いなんだ。これまで乱暴にものごとを進めたことがあったか?」


「あった」


「ありますな」


安心させるつもりで穏健派である旨を強調してみたが、サラとキリクにはあっさりと否定された。


いや、違うんだ。あれは暴力を振るったわけじゃない。

自衛のために仕方なかったんだ。


◇ ◇ ◇ ◇


とてつもなく長く感じられた1日が終わり、静まりかえった事務所の灯火で書類を確認していると、サラが茶を淹れてくれた。

カップから香る嗅ぎなれたハーブの匂い。


ようやく、日常が帰ってきた気がする。


「さっきは、ごめんなさい」


サラが珍しくしおらしい。


「いや、いいんだ。俺も言い方が悪かった」


これからの計画について前提の整理や知識も共有せず、ただ「道を真っ直ぐ通す。進路上の家には退いてもらう」とだけ言えば誤解されるのは当たり前だ。


言葉面だけとれば、悪質な地上げ屋の計画にしか聞こえない。


パン屋や肉屋のおじさんやおばさんの顔を見知っているサラからすれば、許しがたい行為に感じられただろう。


「・・・でもね、それだけじゃないの。司祭様と話してるときのケンジが、すごく楽しそうだったから・・・」


楽しそう? 交渉あれが?

確かに、ニコロ司祭は楽しそうにしていたかもしれないが。


「ケンジも、お貴族様か、司祭様になりたいのかなって」


ぽつり、とつぶやくサラの横顔が灯りで陰る。


「前から言ってるだろう。そんなつもりはないよ」


「それはわかってるけど・・・」


言葉だけで不安が拭えれば苦労はない、か。


肌に合った田舎暮らしから街に戻ってきたストレス。

ニコロ司祭との交渉に立ち会った恐怖。

そこに持ってきて、まるで貴族のように街づくりを語った俺。


それは、不安にもなるだろう。


「道には、花を植えようかと思ってる」


「花?」


唐突な言葉に興味を引かれたのか、サラが顔を上げた。


「そう。新しくできる真っ直ぐで、平らで、白い石畳の道の脇には、花壇を作って花を植える。雨の日にも、花の香りがする道を作る」


「そんなの・・・」


3等街区の街路は、雨が降れば水溜まりができ、泥だらけになる。

排水がされないので、すぐに下水の臭いが立ちこめる。


道とは、汚く、泥だらけで、臭いもの。それが3等街区の道である。


「それを変えるんだ。まずは革通ここりから」


「・・・いやよ」


「いやか?」


下を向いていたサラが、ぱっと顔をあげた。


「あたしはハーブを植えたいわ。花だと食べられないもの」


「そこは、花の咲くハーブで頼むよ!」


「花より、香りよ」


雨が降っても下水の臭いがしない、綺麗な道をつくる。


たったそれだけの小さな夢ではあったけれども、その夜は、2人にとって大事な夢を語りあった気がした。

26日に発売の月刊コンプエースでコミカライズ第3話が掲載されます。

また2話まではcomicWalkerさん、ニコニコ静画さん、Pixivさんでも公開されています。

リンクは活動報告をご覧下さい。

連載継続のため、応援いただけるとありがたく思います。

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i252242/
― 新着の感想 ―
[気になる点] いつまでサラと恋人未満の関係でいるのだろう…。 いい加減この関係に違和感感じまくる…。
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