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異世界コンサル株式会社(旧題:冒険者パーティーの経営を支援します!!)  作者: ダイスケ
▼再開:第四十章 街に戻って経営管理の仕組みを作ります
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第732話:もう1つの権利

コンプエース10月号(8月25日発売)に異世界コンサル株式会社コミカライズ第2話が掲載されます!

ジルボア団長とスイベリー副団長が登場する回になります

アンケート次第で連載継続の可否が決まります。応援、ご支援の方よろしくお願いします

「さて・・・」


ニコロ司祭が言葉を口を開いて言葉を続けようとしたところ「失礼いたします!」と別の聖職者が小走りに入ってくるや、なにやら司祭に小声で耳打ちしだした。

伝言役の聖職者の切迫した表情と口調から察するに、どうも急用らしい。

今日の面談も多忙なところに無理やりねじ込んだ風であるし、この胃の痛みを感じる会話は、そろそろ打ち切りにしてもらえないだろうか。


ニコロ司祭は、こちらに視線を合わせ小さくうなずくと


「しばしの間、休息とする!」とだけ告げた。


どうも視線による会話は通じなかったらしい。


◇ ◇ ◇ ◇


ニコロ司祭が教会の間からいなくなると、部屋の雰囲気は明らかに軟化した。


「いやー・・・何とも、あのお人と小団長のやり取りは何度聞いても緊張しますなあ」


キリクがため息を吐くのを、誰も止めようとはしない。

ついでにサラまでも、


「あー怖かったあー・・・」


などと素直な感想を漏らすものだから、思わず吹き出しそうになった。

怖かった、か。


確かに厳しい交渉ではあったが、得たものは大きかった。

領地開発全般の投資拡大。流民の身分の安定と借金の減額。不足する靴工房への働き手の補充。ゴルゴゴの身柄の保証。


そして、もう1つの大きな権利。


「ケンジが教会を建てたかったなんて知らなかったわ」


教会に対する俺の複雑な思いを知っているだけに、サラには俺の回答が意外に映ったらしい。


「まあ、過ぎたことさ」


俺の足はもう治してもらったことだし、今や靴工房の事業も教会の保護抜きでは成り立たない。

それに、教会に感情的に反発するには、教会の中に知己が増えすぎた。


「兵団で革通りは守れますよ。あの壁を見たでしょうに」


キリクは、別の角度から教会との協力を深めることには反対のようだ。

靴工房に対する教会の影響力が強くなり過ぎると、剣牙の兵団の権益が侵される。

組織のバランス、という意味では理解できる意見だし、それを理解して意見を表明できるキリクの成長は好ましいものだ。


「あの壁は、近々どかすよ。少なくとも、もう少し大人しいものにしてもらうさ」


「なぜです!?あの壁があるから手を出してくる連中が減ってるんですよ!」


しかし、キリクにはもう一つ先のビジョンを見てもらいたい。


「あの壁が目立つと、皆が安心して暮らせないだろう?」


そう言うと、案の定、キリクは目を白黒させた。


◇ ◇ ◇ ◇


ニコロ司祭が戻ってこないので、サラ、キリクと内輪の話を小声で続ける。


「さっきの司祭様との話を憶えてるか?教会を建てるための条件として、道路と排水溝を整備したい。そして清掃も手がけたい、と」


「あれね!きっと工房の人達も喜ぶわね、ご飯食べるところも綺麗になるもの」


「さすが教会、太っ腹だとは思いましたね。道を掘り返すってのは人手と金がかかります。それに石畳や排水ってのは技術者が要りますよね。それを教会建設のついでに出そう、ってんですから」


「まあ、そこは司祭様からの今回の件に関する詫び料だろうね。襲撃を避けるために領地に避難したのに、結果的には襲撃されたわけだから」


「なるほど」


「でも、それだけじゃない、でしょう?」


素直にうなずいたキリクに、サラが疑問をかぶせてくる。


「なんでそう思うんだ?」


「だって、ケンジが凄く悪い顔をしてたもの」


悪い顔とはなんだ。こんなに色々と先のことを考えているのに。


「まあ・・・そうだな。今回の件は、靴工房にとって大きなチャンスだと思ってる」


「どんなこと考えてるの?」


「小さいところから言えば、道路を掘る仕事を多くの人に与えられる。これは冒険者にとっても危険がなくてわりのいい臨時収入になる。なにしろ身一つあればできるしな。細かい指導は教会の技術者がやってくれる」


「まあ、そうね」


「石畳と排水溝の設計と建造は、領地開発の水車小屋と製粉工房建設の予行演習にもなる。技術者と打ち合わせをしたり、実際に荒くれた連中の多い人夫を手配し、命令し、動かすという経験は、領地開発を手がける俺たちにとって必ず大きな経験になるはずだ」


「そこは、手を出すのね」


「そりゃそうだ。教会が教会の金で経験を積ませてくれるっていうんだから、噛まなきゃ損さ」


「ふうん・・・でも、まだ何かあるんでしょう?」


「そうだな。排水溝の清掃をする仕事ってのは、見方を変えれば権利でもある。排水溝の清掃のためにスライムを狩る、それは清掃のために必要な仕事であり、権利にもなる」


「あっ!そうね!」


「そう。つまりスライム狩りは正式な俺達の権利になるわけだ。少なくとも、この教区ではな。これを前例として認めさせることができれば、3等街区の排水溝の掃除とスライム狩りを俺達の独占する権利に仕立て上げることだって将来的にはできるわけだ。そうなれば、スライム狩りをしている子供達の保護や教育もずいぶんとやりやすくなる」


「はーー・・・ケンジって、ほんっと悪いこと考えるわね」


「いや、さすが小団長。悪知恵だけなら団長にも負けませんぜ」


なんだか失礼な物言いが返ってくる。

俺がとっさに全員のために良かれ、と思い絞り出した知恵なのに。


「だけど、それだけじゃない。最後のとっておきのやつがある」


なので最後の答えは少しばかりもったいぶることにした。


「えっ!!まだあるの!?」


「いや、もったいぶらないで教えて下さいよ!」


サラやキリクは知りたそうにしていたが、教えてやらん。

だいいち、この会話にニコロ司祭が聞き耳を立てていない保証はないじゃないか。

ちょっと前回から話に詰まっていて更新が遅れました。

週末にも更新します

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