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異世界コンサル株式会社(旧題:冒険者パーティーの経営を支援します!!)  作者: ダイスケ
第三十九章 領地の現場を歩いて復興を支援します

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第712話 救援と芝居の役者

【書籍化関係のお知らせ】


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・7月12日に幻冬舎様より「異世界コンサル株式会社」がビジネス書として発売されます

・本屋さんでの予約がスタートしています(予約報告、ありがとうございます!)

・電子書籍も同時発売です。こちらもAmazonKindleとiBooks、楽天koboでスタートしています

翌日、太陽が中天に差し掛かる頃に、男が1人やってきた。


剣牙の兵団の先触れだ。駆け通しだったろうに疲労の色ひとつ見せないあたり、さすがと言うしかない。


「おや。1人で片付けてしまいましたか。流石ですね」


ところが、先触れの男はそんなことを言う。


1人でやったわけじゃ・・・と言いかけて気がついた。

実質はキリクが1人でやったのだった。


「いろいろな状況が重なってな。運が良かった」


謙遜ではなく、実感でもある。

数え上げれば、いろいろな要因があった。


元から完全な籠城の態勢を構築していたこと。

襲撃側が攻城を想定した装備や編成をしていなかったこと。

農民達が激発して背後から襲撃者を脅かしたこと。

背後からキリクが完全な形で奇襲できたこと。

門の前にかたまっていた襲撃者が、長柄の斧槍で薙ぎ払ういいまとになったこと。

斧槍兵のキリクが完全な力を発揮できる開けた場所で周囲に敵しかいない状況であったこと。


これだけの条件が整えば、襲撃側が何も出来ずに敗北したのも頷ける。

要するに、運が良かった。


「その状況を作り出したのが代官様なのですから、誇ってもいいのではないですか。運も実力のうちですよ」


先触れの男はそう言うが、運は運でしかない。

あまり誇る気分にはなれなかった。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇


気分が乗らないのには、もう一つ理由があった。


昨夜の戦闘後の処理がひたすらに面倒くさかったのだ。

それこそ、戦闘そのものよりも遥かに気疲れすることになった。


襲撃者達をどう処遇するか。

それは領内の警察権と裁判権を併せ持つ代官である自分にしか処理できない案件である。


まずは武装解除した傭兵達をどうするか。


密かに葬るには人目につき過ぎているし、領民たちの感情もある。

後日、正式な裁判にかけることとして傭兵達は庭の隅に固めて放置。

糞尿は庭の隅にでもさせて、農民達が交代で武器を持って見張る。


身代金を払う算段があれば解放する、と言ってあるので無茶な行動に出る可能性は低い。

第一、負傷した体で1人きりで夜の森に逃げ出すなど、魔狼に生きの良い夜食を差し出すようなものだ。

朝までに骨になること、請け合いである。


なので傭兵達の処遇については、とりあえず問題がなかった。


問題になったのは、元板金鎧の男、とりあえず貴種らしい男の処遇である。


「あたし、絶対にあんな奴の面倒なんて見ないから!」


とサラがすっかりへそを曲げてしまったので、農婦に世話をお願いすることになった。


その次に問題になったのは、その男をどこに宿泊させるか、である。


野宿などさせようものなら何をわめき出すかわかったものではない。

しかし村長宅などに隔離すれば「身分の低いものとの約束など知ったことではない」と逃げ出す可能性もある。

野垂れ死ぬのは構わないが、政治的に問題になったり身代金が減るのは困る。

あの板金鎧を一番の高値で買い上げてくれるのは、あの男の実家であろう。

偉そうな男を尊重すると思えば腹も立つが、金貨の袋を大事にする、と思えば腹も立たない。


「いっそ3階の私達が篭っていた部屋を使わせたらどうですか?籠城用に設備は運び込んでありますし、印刷機と小麦粉を除けたら使わせても問題ないでしょう。1階などを使わせて執務室などに入り込まれたら、それこそ問題になりますし、3階で扉だけ封鎖しておけば、まさか飛び降りたりはしないでしょう」


ということで、パペリーノの提案に従い、武器を持って駆けつけてくれた農民達には悪いが三階から倉庫へと印刷機と小麦粉を倉庫へと人海戦術で引っ越作業をする羽目になったのだ。


◇ ◇ ◇ ◇


「来ましたぜ!」


先触れの使いに予告された通り、しばらくして剣牙の兵団がやってきた。


いつもの通り、団長を先頭にして剣盾兵、斧槍兵、弩兵で編成された男達が揃いの黒い硬革鎧で規則正しい靴音をたてて行進してくる。


先日のだらだらと団子になって近づいてきた傭兵団とは、なんという違いだろうか。

剣牙の兵団は、確かに一流クランだ。移動の様子一つとって見ても、練度がまるで違う。


これだけ集団の規律と訓練が行き届いていて、さらに個人の戦闘力はキリクと同程度の者達が揃っているのだ。

有翼獣や小竜ぐらいなら難なく狩れても不思議ではない。


剣牙の兵団は屋敷の前庭まで規則正しい行進を続けた。

その頃になると領内の農民達が心配と怖いもの見たさとで、またぞろ農具を振りかざして集まろうとしていたので、敵ではなく援軍である、という旨の説明をしてまわる羽目になった。


ところが、味方の援軍である、となればそれはそれで気になるものらしく、代官屋敷の前庭は好奇心を刺激された農民達が十重二十重に取り囲んでしまい、手に武器こそないものの、先日の襲撃者を取り囲んだのと瓜二つの様子になってしまった。


どうやら農民達が、何かあったら代官屋敷を囲む、という行動様式を身に着けてしまったようで頭が痛くなる。

もちろん、以前のように呼びかけて屋敷まで来ない、という状況よりは幾分マシなのではあるが。


「慕われているな、ケンジ。それにまた派手にやったじゃないか」


「団長様自らのご出馬とは光栄だな」


久しぶりの邂逅に握手をすると、なぜか周囲の農民達から拍手と歓声があがった。


先日の板金鎧の男とのやり取りといい、どうも農民達は芝居でも見ている気分になっているらしい。


たしかにジルボアにはそこらの役者など問題にならない容貌とカリスマがあるから、気分はわからないでもない。

自分も何だか芝居に参加している役者のような気分になってくる。


英雄叙事詩「ジルボア」の一幕というわけだ。

それはそれで悪い気分ではない。

明日も更新します。

出版までの経緯を書いているエッセイの書き溜めが尽きたので、これから書きます...

水曜日の発売までは、毎日更新を心がけます

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