第711話 貴種の規則
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敵のリーダーらしき男が降伏したことで、生き残った連中の武装解除はスムーズに進んだ。
襲撃者の連中で、死んだ奴は思ったより少なかった。
手当が早かったせいか、死者は4人で済んだ。
もっとも、生き残った連中でも腕や足を失った連中も多いから、傭兵に復帰できる奴は半分もいないだろう。
「教会で銀貨を積むことですね。街の冒険者ギルドを通じて依頼すれば、早いうちなら治療が間に合うかもしれません」
とは血止めの治療をしながらパペリーノがかけた言葉だ。
俺が教会と交渉して創り上げた冒険者ギルドと教会の間で交わされた治療システムに、この傭兵達も頼るわけか。
襲撃しておいて治療の世話になるとは、皮肉なものだ。
「くそっ!相手が剣牙の兵団だなんて聞いてねえぞ!知ってたら絶対に断ってたのに!」
武装を解除され、農民達に囲んで見張られた状態で鶏小屋近くに座らされた傭兵の一人が毒づいていた。
その感想には同意する。
スイベリーといいキリクといい、この世界の一流の冒険者連中の腕というのは人間離れをしている。
こいつらを敵に回すのは命知らずか、単に現実を知らないアホのすることだ。
一方で、敗者にもかかわらず1人だけ身綺麗にして落ち着いた様子の男もいる。
例の板金鎧の男だ。
「まずは鎧を脱いでいただけますか」
無理やり剥がしてもいいが、そうすると鎧に傷がつきそうだ。
「よかろう。従者をつかわせてもらうことになるが」
武装解除された座り込んでいる連中の中に従者がいるらしい。
こちらが頷くと、怪我の程度が比較的軽い男が立ち上がり板金鎧を脱がせるのを手伝いにかかった。
防御力の高さにも関わらず冒険者で板金鎧を着る者が極めて限られるのは、その価格と重量に加えて着脱の手間がある。
戦場でだけ敵に備えれば済む兵士と異なり、冒険者はいつ何時、怪物との戦闘に突入するかわからない。
剣牙の兵団の黒い鎧は、防御力は板金鎧に匹敵し、なおかつ1人で着脱できる工夫が各所にしてある、らしい。
ガチャリ、と音がする度に、兜、肩当て、上腕部とベルト金具で留められていた全身鎧のパーツが一つずつ外されていく。
それにしても、いい鎧を着ている。
板金鎧に目立った装飾こそないものの、板金鎧自体に波打ち加工が施され、金属の厚み以上の強度を各パーツに与えるよう工夫されている。
実用的で美しい、機能美と職人芸の極みだ。
「こちらの鎧は慣例により、私共が預かることになりますが」
「良かろう。ただし大事に保管してもらいたい。後から買い戻させてもらうことになろう」
キリクが敢えて板金鎧の男を降伏させたのは、板金鎧の買い戻し金が目当てだ。
これだけの逸品、かなりの値がつくに違いない。
男は相変わらず偉そうだが、兜と板金鎧を取り上げられた今の姿は鎧下の厚布鎧だけであり、厚手のパジャマを着ているようなものなので何とも格好がつかない。
風貌からすると、年齢は20代半ば。茶色の柔らかそうな髪は綺麗に刈り揃えられている。
鼻は高く、目元は涼しく、背も高い。いかにも高貴な生まれで、自分が傷つけられることなどない、と確信している人間の態度だ。
「それで、いつまでここに立たせておくつもりかな。室内で茶などいただきたいものだが」
勝負はついたとは言え、屋内に侵入させるつもりはない。
「屋内は荒れておりますので、こちらに卓と椅子を運ばせましょう。サラ!茶を淹れてくれないか」
ところが、サラは茶を淹れずにずんずんとこちらへ近づいてくると、耳に口を寄せて小声で激しく文句をつけてきた。
(ケンジ!なんであんな奴の言うこと聞いているの!あれはこっちの命を狙ってきた敵でしょ!おまけに茶とか!何を考えてるの!)
「それが、ああいう身分の人の常識だからだよ」
こちらの問答を聞きとがめたのか、今は布鎧だけになった男が言葉を挟んだ。
「そうだ。ここの代官は卑しい生まれと聞いていたが、なかなか常識を弁えている。それに比べて、使用人の教育はなっていないな」
「なんですって!!」
反射的につかみかかろうとしたサラを慌てて止めているというのに、男は滔々と語るのを止めない。
「戦いは戦いとして、それが終われば互いを讃え合う。それが高貴なる者に相応しい精神というものだ。君も貴族階級の端にぶら下がるだけの身分になったのだから、それくらいは憶えておきたまえ」
「せいぜい心に刻んでおきましょう」
まったく、これではどちらが勝者かわかったものではない。
どいつが黒幕かは知らないが、さっさと身代金を払って引き取ってもらいたい。
明日も更新します。
手元に見本が届きました。発売日が近づいてきたのだと実感がわきます。
緊張しますね。




