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第71話 握手

見知らぬ男の訪問。


自分の剣は、部屋に置いたままだ。

懐の短剣が、やけに頼りなく感じられる。


赤い衣の男の付き添っている大柄な男は、間違いなく護衛だ。

冒険者ギルドで見かけたことはない。

駆け出しではなく、事務所を構えるクランか専業の職についている男だ。

おそらく、俺よりも相当に腕が立つ。


そこまでを一瞥して、挨拶を返す。


「おはよう、会ったことはあったかな?」


「ええ。どこかで会ったかもしれませんな」


俺は、そこそこ人の記憶力には自信がある。

この嘘臭い笑顔の男とは、絶対に初対面だ。


「今は見てのとおり、食事中でね。少し待ってもらえるかな」


すると男は真正面の椅子に黙って座った。


「そこは指定席なんだ。遠慮してもらえるかな」


赤い衣の男はニヤリと笑う。


「ケンジさん。私と一緒に来てもらえますかな」


「相談なら、ここで受けるよ」


「いえいえ。いいお話なので、ぜひ一緒に来てもらえますかな」


二度言った。絶対によくない話のやつだ。

後ろの大柄な護衛が一歩踏み出す。


やるか。飲んでいる茶を投げつけて、短剣で前の男を人質にすれば・・・

タイミングを計る。


「ねー、あたしもお茶ちょーだーい」


その時、階段を下りてきたサラが、声をかける。


「あれー?お客さん?今日は出かけるんじゃなかったの?」


俺は目をそらさずに答える。


「そうだ。剣牙の兵団のジルボアに呼ばれてたな。そろそろ出ないと、相手も気にするだろう。大事な用だからな」


剣牙の兵団、大事な用、のところを強調して答える。

これでダメな相手なら、万事休すだ。


赤い衣の男は、ジッとこちらを見つめ、そうして無言で立ち上がると黙って宿屋を出て行った。


「なーにー?あれ誰だったの?」


「俺も知りたいよ。いや、知りたくないかな」


俺は手のひらの汗を拭いながらサラに答えた。

懐の短剣が、やけに冷たかった。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇


情報が洩れている。


誰に、どこから漏れたのか。どこまで洩れているか。

気になることは多いが、追及したところで対策がない。


足早に2階の自室に戻り、剣帯を腰につけるとサラに言う。


「サラ。宿を変えるぞ。2等街区の宿で剣牙の兵団に近いところにする」


「えー、あの辺りの宿賃、今の3倍はするじゃん」


「いいんだ。俺が出してやる。早く荷物をまとめろ」


俺も自分の荷物をまとめる。羊皮紙や板切などの資料も結構な量だ。

財産の殆どは、別のところに隠してある。


一方、サラの荷物は少ない。あいつエンゲル係数高いからな。

増えた収入は食費に消えているのだろう。


ちょうど近くを駆け出しの見知った冒険者が通ったので銅貨を払って荷運びを手伝わせる。


「なんです、お二人で新居にでも移るんですか?」


と聞かれたので


「荷物が多くなりすぎてな、親父が嫌味を言うんで宿を変えるんだよ」


と適当に答える。

半分は本当だ。資料も多くなったし、親父もつまらん欲を出すので鬱陶しくはあった。


2等街区で事務所を探していた時に、ついでに目をつけた宿がある。

しばらくは、そこに荷物を置いて拠点にする。


とにかく、情報は漏れてしまった。


計画を前倒しで進めるしかない。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇


剣牙の兵団の事務所につくと、ジルボアに面会する。


「もう100足、靴は要らないか?」


と持ち掛ける。


「いや。すぐには要らんが・・・なるほど」


「そうだ。来年も、その次の年も100足ずつ靴を納めよう」


「悪くない。だから、身を守れってことだな。脅されでもしたか」


それにはとりあわず、話を続ける。


「街間を輸送する商人に知り合いは?なるべくデカイところがいい」


「いる。うちを辞めたやつだ。すると・・・」


「そうだ。そいつらにも売るから紹介してもらいたい。もちろん、剣牙の兵団(あんたら)の後だ」


剣牙の兵団(うち)の旨味は?」


「靴では足りないか?」


「靴だけではな」


くそっ。だから賢い奴は嫌いだ。


「100足の靴だが、余った靴には売り先が必要になるんじゃないか?それもプレミアムがつく別の街で」


「・・・なるほど。ちなみに、断ったら?」


「駿馬の暁に話を持っていく」


駿馬の暁は、この街で剣牙の兵団と対抗する一流クランの一つだ。


ジルボアは、ギシッと音を立てて背もたれに寄りかかる。


「そいつは、うまくないな」


「ああ。そんなことはしたくない」


ジルボアは俺の目を見て答える。


「あんたとは友達でいたいからね」


「俺もだ」


俺とジルボアは握手を交わした。

明日も18:00更新。

余裕があれば、20:00過ぎ、22:00過ぎも更新します。

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