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異世界コンサル株式会社(旧題:冒険者パーティーの経営を支援します!!)  作者: ダイスケ
第三十九章 領地の現場を歩いて復興を支援します

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第701話 逃げてもいいのだから

お知らせです。

このたび幻冬舎さまから「異世界コンサル株式会社」が書籍化の運びとなりました。

発売日は7月12日。なんと、なろう初?のビジネス書であります。

詳細につきましては活動報告で適宜お知らせして参ります。


会議の結論として、襲撃は翌日の昼間を期すことになった。


暗くなれば夜目のきく人間の少ないこちらが不利であるし、逃げられる可能性も高くなる。

それに朝方に出稼ぎ農民たちを集めてから、不審な農家に派遣する、という流れのほうが手順として自然で秘密の漏れる可能性が減る。


「そもそも、空振りに終わる可能性もあるしな」


「そうなの?」


サラが首を傾げた。


「ここにいる可能性が高い、とは思う。だがあくまで机の上での結論だし、数日前はいたかもしれないが、今はいない可能性もある」


「それでは、これから確かめに行きますか?」


パペリーノが腰を浮かす。どうも性格的に不確かな事象というのが許せないらしい。


「駄目だ。偵察に関しては我々は素人だ。下手に動けば、却って気づかれる」


相手も本腰を入れた潜伏のプロだ。これまで全く存在を気づかせなかったのだから、今から何かしたところで簡単に尻尾を出すとも思えない。


「そもそも100%確実な情報収集に基づいた作戦なんてない、そうだろう?キリク」


「ですな。それでも決断するのが団長の役割だ、と聞いたことがあります」


戦場の霧、という言葉がある。相手の情報が完全にわかっている状態で決断できることは戦場や現実においてほとんどない。だが、その中でもリーダーは決断しなければならない。

情報収集能力の向上に金銭が注ぎ込まれ、リーダーの資質が賞賛される所以だ。


「まあ、失敗したところで損害はない。新しく豆の畑が耕されるだけだしな」


ただ、今回の決断については襲撃が空振りに終わったところで具体的な損害が発生するわけではない。

少しの手間賃と豆の畑が増えるだけだ。


「そこにいなかったらどうするの?」


サラの疑問に目を閉じて思考を整理しながら答える。


「2つ可能性がある。別の場所に潜伏しているか、それともいったん退いたか」


「逃げちゃう可能性なんてあるの?」


「きちんとモノの道理が理解できる人間が偵察していれば、代官屋敷から印刷機を盗み出したり、ゴルゴゴを誘拐して密かに運び出すのが難しいことぐらい理解できるだろうさ。一度退いて態勢を立て直そうとしても不思議じゃない」


「態勢を立て直して、どうするの?」


「それも2つ可能性がある。1つは割に合わない、と諦めてくれる。俺としてはそうして欲しいがね」


「もう1つの可能性は?」


「大人数で攻めてくる。この代官屋敷を落とせるぐらいに」


首を竦めて答えると、また全員の上に沈黙が降りる。

俺だって別に趣味で不吉な予言をしたいわけじゃない。

ただ、可能性を絞って考えていくと、そうなる場合シナリオもある、というだけだ。


「・・・明日の朝イチで団長に連絡をとります」


「ああ、そうしてくれ」


キリクの団に早急に連絡を取る旨の発言を締めとして、会議は終わった。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇


剣を握るのは久しぶりだ。


少し暗くなってきた屋敷の中庭で長剣を抜く。

この長剣は特別に謂れのあるものではないが、柄が少し長く軽めの剣を選んで使っている。


右手を上に、左手は柄元に。

左手一方で振るつもりでゆっくりと頭の上に振りかぶり、右足を踏み込むのと同時に素早く振り下ろす。


その際に両手を絞るように、肩から背筋から腰までを連動させる。

きちんと剣が振れると、全身が絞りあげられるような感覚がある。


呼吸と合わせて、なるべくゆっくりと数十秒かけて息を吸い込みながら振りかぶり、できるだけゆっくりと息を吐きながらと振り下ろす。


それを、ほんの10回。

それだけで全身から汗が吹き出してくる。


肩の筋肉が凝っているのか、ゴキゴキと音がする。正しい姿勢で振ることを意識すると、普段の自分がいかに背筋が曲がっていて、下腹に力が入っていないのかがわかる。


「このところデスクワークばかりだったからなあ・・・」


体を解しながら、剣の型をゆっくりとなぞっていると冒険者をしていた頃のことが思い出されてくる。


元の世界で高校時代まで剣道をそこそこやっていたものの、本物の刃がついた剣にはなかなか慣れず、最初はずいぶんと苦戦したものだ。


どうにか昔の感覚を体に思い出させるべく苦闘していると、サラが声をかけてきた。


「ケンジが剣を振るのを見るのは久しぶりね」


「そうだな。足を悪くしてからは、まったくやってなかったからな」


冒険者を辞める原因になった左足の怪我は、ニコロ司祭の魔術治療で完治した。

今では歩くことには支障はないのだが、体に染み付いた負傷の記憶はなかなか消えないものだ。

歩き方には少し癖がついた、と思う。


「サラは弓の練習はしなくていいのか?」


「あたしは、ときどき鳥を狩ったりしてるもの」


なんとサラは、畑の作物を狙う小鳥を短弓で狩っているらしい。


「そういえば、ときどき鳥の焼いたのが食事に出てきていたな。あれはサラが狩ってたのか」


「小さい頃からとってたもの。お腹が空いたら鳥を獲るの」


それはすごい。流石に生粋の弓兵は心構えからして違う。

ちょっと金持ちになると剣の振り方を忘れる現代人とはえらい違いだ。


「ねえケンジ、怖かったらやらなくてもいいのよ?ケンジはもう代官様なんだから」


「そうはいかないさ。剣も握れない農民連中を前に出すわけにはいかないだろう?心配しなくても怪我をしないようにするさ」


それで話が終わるかと思えば、サラが重ねて念押しをしてくる。


「逃したっていいんだからね?何日かしたら剣牙の兵団の人達が来てくれるんだから。それに後ろからあたしが弓で射るし」


本気で心配してくれるのはありがたいが、サラも一緒に来るわけだし、普通は心配する役割が逆じゃないかと思うのだ。

明日もできれば更新します。

これから書籍の発売日まで書籍化に関する宣伝などが増えると思います。

ご容赦ください。

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