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異世界コンサル株式会社(旧題:冒険者パーティーの経営を支援します!!)  作者: ダイスケ
第三十九章 領地の現場を歩いて復興を支援します
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第684話 走り回ること配ること

さて。そうして訓練された少年たちは、思いの外、役立った。


なにしろ通信手段の限られた世界であるから、コミュニケーションを取るためのコストが馬鹿高いのである。


字の読めない村人たちに、こちらの意図を伝達するためには直接話しかけるしかない。


だが、こちらで出かけて村中を回るなどしたら数日がかりの大仕事であり、事務処理をする時間がなくなる。

しかし全員を集めて話そうとすると、そもそも全員に集めるための合図を送る必要があり、それは教会の鐘を鳴らすなどの方法で対応するとしても、呼び出しや点呼も含めると、農民全員の農作業を半日はやめさせることになる。


それらの時間や労力のコストを、出稼ぎ農民のところで浮いている子供の力で代替できるのだから、連絡役の子供達を雇うことは劇的なコスト削減につながるのである。


そんなわけで、1人だけを常駐にして3人でローテーションを組んで交替させるつもりでいた伝令の体制は、初日からフル稼働することになった。


少年たちは毎日稼げて笑顔、こちらも楽ができて嬉しい。

正しくウィン・ウィンの雇用関係である。


「はい、それじゃあこれが今日の分ね」


そうして今日も赤黒茶の3人組が、サラから塩、豆、小麦の現物で給与を受け取って誇らしげに帰っていく。


「なぜ毎日、それも現物で支給するのですか。記録をとっておいて後日まとめて銅貨で支給しても良いのではないですか」


会計を見ているパペリーノからすると、原始的なやり取りに映るのだろう。

日払い、現物支給という形態をやめて給与制にした方が、との提案があった。


「いずれそうしてもいいが、今はだめだ」


「それは、なぜですか?」


「簡単に言えば、我々に信用がないからだ。商家の取引で例えると、我々はポッと出の新規取引客だ。うまい取引をすると言っているが、代金を持ち逃げするかもしれないし、約束した商品を持ってこないかもしれない。そんな人間と取引するのであれば、まずは現物、現金、即時取引しかない。


つまり、信用のない我々は、彼らの労働力を毎日、現物で買っているわけさ。それが積み重なれば、いずれは掛けでの取引きとして給与に移行しても構わないかもしれないが、今は無理だな」


「ははあ・・・」


どうにも納得のいかない、という顔のパペリーノに、取引の利点も説明する。


「そう言うな。考えようによっては、信用という大きな財産を、ひとすくいの豆と小麦で買えるんだから、いい取引じゃないか」


「なんというか、その・・・人と人との関係を取引と見なす代官様のお考えと、出稼ぎの農民達の置かれた境遇を劇的に改善された代官様の善行との間の違いに、未だにときどき混乱することがあります。私の未熟の故だとはわかっているのですが」


「そうか?」


自分の中では一貫した矛盾のない行動なのだが、聖職者であるパペリーノからすると理解しがたい部分はあるかもしれない。

ただ、そこは価値観の相違というものであるから決して埋まることのない差なのかもしれず、それはそれで仕方ないとも思うのだ。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇


伝令役の子供達が走り回って村中に周知してくれたこともあり、数日後には豆の配布を始めることができた。


配布場所は、元村長の家の庭にした。

村長だけあって、村の中でもいい場所に家を構えている。

庭であれば外からも見えやすいし、代官の屋敷に来るよりは心理的なハードルが低かろうということで、場所を決めたわけだが、配布の出だしは低調だった。


なにしろ、最初の1時間ぐらいは3組しか豆を受け取りに来なかった。

それも代官屋敷に働きに来ている農婦の紹介で、である。


これは長丁場になるかな、と覚悟もしたものだったが、その予想はすぐに覆ることになった。


取りに来た村人に知人に伝えるように頼んだこともあったが、昼前には村中の人が押し寄せてくるようになったのだ。

どうも、庭で植える豆については初年度は無税になること、その豆が信じられないぐらい大きく品質が揃っていること、どうも魚を取る権利まで貰えそうであること、などが口コミで伝わった結果らしい。


事前に説明はしていたが、見ることは信じること、という言葉があるぐらいであって、言葉などよりも大粒の豆を貰えた、という事実が何よりも説得力があったらしい。


ただ、それで列が押し寄せた村人で大混乱になる、などということはなかった。

事前に計画したとおり、流れ作業で列は進められていく。


「はい、お名前をお願いします。字はこちらで代筆しますから。それとご家族の人数と名前を教えてください。豆の畑を作るのに人手を希望しますか?魚を取る権利についても希望しますか?」


といった具合で質問し、答えると笊一杯のレンズ豆を受け取れるわけである。


事務処理は予め演習してあった通りに迅速に進められ、列を乱そうとする者はキリクが威圧する。

そうして夕方になる前には、いくつかの連絡のつかなかった家族以外の全ての家庭に豆を配り終え、名前と家族構成、農作業の手伝いの希望や漁業権の希望などについての基礎的なデータが手に入ったのだった。

明日は20:00頃に更新します

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