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第644話 仮説と視察

「とりあえず、書き写してくれるか」


「それは、私がやります!」


散布図を作ったはいいが、いつまでも床に羊皮紙を撒き散らしておくわけにはいかない。

とりあえずは、鼻息が粗いままのパペリーノにメモを任せることにする。


「しかし小団長、いや代官様。俺も家を手伝わされた時に帳簿の足し引きぐらいはやりましたがね、あんなやり方、見たことも聞いたこともないんですがね」


そんなことを言われても「まあな」としか答えようがない。


「よくわかんないけど、あれでちゃんとやってる農家の人がわかるの?村の人に聞いたほうが早くない?」


「そうだな。俺たちが村人に信頼されていて、何年もこの領地を見回っていれば、その方がいいだろうな」


本当なら、サラの言うように村人との信頼関係を築いた上で、自分の目で確かめるのが正道なのだ。

ただ、今は前任者のやらかしのせいで村人との信頼感がない。おまけに村長一族がいなくなったせいで、統治のノウハウも消え失せているのが実情だ。


「だからまあ、今のやり方はとりあえず目鼻をつけた、というだけのところだな。あとは実際に足を運んで確かめないと」


俺達のやり取りが聞こえたのか、パペリーノはガリガリとペンを走らせつつ「それは違います!」と言葉を挟んできた。


「教会は、多数の領地を抱えています。よい領地もあれば、駄目な領地もある。そうした領地を管理する代官をどうやって評価すべきか、この方法を使えば一目瞭然ではないですか!」


なるほど。俺達は農地を評価したが、教会の目線に立てば、農地を評価する代わりに領地を評価するのに使えるのか。

便利な方法を作ったつもりが、便利に管理される羽目になるのか。

何となく墓穴を掘った気もする。


「しかし、あれだな。村長の農地は、あまり成績が良くないな」


気まずくなった雰囲気を切り替えるために、別の話題をふる。

この村で最大の面積を誇る農地を持っていた村長の畑は、真っ直ぐに引いた線の下に位置していた。


大きな土地を抱えて人を使っているのだから、もう少し成績が良くても良さそうなものだが。


「だって、教会にいた人達をすごく悪い待遇でこき使ってたんでしょ?そんなの、当たり前じゃない!」


サラは、教会で子供たちを見て同情したためか、前村長に対しては批判的なようだ。


「でも、そんな事が簡単にわかるのね。この散らかしたの、すごいわね」


「散らかしたの・・・」


意味はわかるが、もう少し別の言い方はないだろうか。


データというのは、解釈がわかると見ているだけでも面白い。

この領地のおける農地の広さと徴税額の散布図も、見ているだけで興味深いことがわかる。


「大きな畑は少ないな。やはり村長一族が独占していたのだろうな。それと小規模な畑が多い。中規模な畑は少ないが、どれも線の上にある。家族で耕す自作農としては、あのくらいの規模が一番やる気も出て効率もいいのかもしれないな」


「そんなこともわかるの?」


「そうだな。ただ、現場を確かめるまでは、ただの仮説だよ。サラもキリクも、慣れればできるようになるさ」


「うん・・・」


「そうですかねえ」


なんとなく、疑いの目で見られている気もする。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇


パペリーノが写し終わったところで、本題に入る。


「さて、ここで問題になるのは線の上にある農家だな。線から最も離れている順に10箇所取り上げよう。それから、10箇所については何年か遡って収穫をチェックする。増えているか、減っているか。それで農地が良いだけなのか、管理者が優れているのかが判断できるはずだ」


「それって・・・」


「そう。ここの羊皮紙を片付けて、また倉庫から別の記録を引っ張り出してくる」


「まあ、そうなりますな。それにしても、手間ですなあ」


サラとキリクがうんざりした顔を見せる一方で、パペリーノは「素晴らしい!こんなに楽になるとは!」と目を輝かせている。

教会の中で働いていた時に、いろいろと大変だったのだろう。


結局、羊皮紙の記録を戻して当該の記録を引っ張り出して、検証するのに、それから半日の時間が必要だった。


「それで、お眼鏡に叶ったのが3箇所か」


残り7箇所のうち、3箇所は近年、収穫が緩やかに落ちてきていて、4箇所は落ちてもいないが、伸びてもいなかった。安定感がある、という意味では着目するべきかもしれないが、とりあえずは後回しにする。


まずは、この3箇所の農地について、この目で視察に行くとする。

明日も18:00更新予定ですが、ズレ込む可能性があります

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