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異世界コンサル株式会社(旧題:冒険者パーティーの経営を支援します!!)  作者: ダイスケ
第三十八章 領地の復興計画を支援します

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第640話 流民と対応

初老の司祭は「私も赴任して日は浅いのですが」と前置きをしてから説明を始めた。


「追放された村長の一族というのは、この村で何代も続く名家でして、たいそう良い暮らしをしていたそうです。それこそ、村長の奥方ともなれば土を弄ることもなく、村長本人も畑を耕すよりは、人を動かし差配するのが専らというような」


なるほど、そこまでいけば農家というより豪農だな。

村長として下の者達の集団作業を指揮していたわけか。

村を束ねる役職として、それ自体は別に責められるような話ではない。


「村長一族で抑えていた土地は大層広かったものですから、働くものたちは常に不足しておったそうです」


「いや、それはおかしい」


司祭の指摘に、俺は異議を唱えた。


「この村からも、過去に何人も冒険者となる若者がでていることは調査の上で確認済みだ。そもそも村内で労働力が足りなければ、若者が街に出る必要はないだろう?」


俺の指摘にも「正確には違うのです」と、初老の司祭はやんわりと答えた。


「村長の求める報奨の水準で働くものが不足していたのです」


「・・・なるほど」


要するに、村内で若者が働くにはとてもやっていけないような水準の待遇で働かせようとした、ということだ。

それこそ、若者がこの村にいては未来がない、と失望して先の見えない冒険者の世界へ飛び込んで行く程度には。


「そこで、村長は村の外の者達に目をつけたようです。村の外の者達であれば、待遇が低くとも一族から文句は出にくいですからね」


狭い村社会で、あまりに低待遇で人を雇っていると世間体が悪くなる。

良くも悪くも血縁関係が近いので、誰それの甥に酷いことをしている、などと悪い評判がたつと、いろいろとやりにくい。

ならば、村の外の人間を雇えばいい、ということなのだろう。


「だが、村に大勢の人間を雇い入れるのは、村で飢饉になった際の分配などで問題があるだろう。それに村の外の人間を雇うには領主と村の会合の許可が・・・」


と、言いかけて気がついた。

村長は前の代官と結託していたわけで、つまりは許可を出す方の側が結託していたのだ。


「そうです。前の代官様は村長に全て任せておりまして、村の会合では、行く宛のない者たちを扶養している、と主張していたそうです。そうなると、教会としても、正面切って注意はしにくいのです。低待遇とはいえ、人助けには違いありませんから」


私欲がベースとは言え、建前としては完璧であり、領主の許可もある。

それでは教会としても文句のつけようがなかっただろう。


「それで、教会として今後はどうされるつもりなのですか」


教会で対応すると言うのであれば、代官として方針だけでも聞いておかなければならない。

一時的な問題であれば、協力できる部分もあるだろう。


「それについてですが」


初老の司祭は、若干、言いにくそうに切り出した。


「中央の方からは、代官の意向に従う、とだけ指示が来ておりまして」


「それは、私に任せる、という意味でしょうか」


「言いにくいことですが」


これは問題の丸投げ、というやつか。

前代官のみならず、村長の残した問題についても難題がまた一つ積み上げられたわけだ。

まったく、やってくれる。


教会を辞した帰り道では、なぜあのとき村長一族にもっと重い罰を与えるよう訴えなかったのか、過去の甘っちょろい自分に腹を立てながら早足で歩いた。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇


図らずも明らかになった流民問題をどうするか。


こればかりはゴルゴゴに無理を行って据え付けてもらった黒板を前にして、考えをまとめることにする。


代官になって面倒事ばかりだが、緑が多く空気が良いことと、執務室が広くなったのは数少ない利点だ。


「はい、お茶。新しいの」


持ち運び式の鉄ストーブを工房の事務所から持ってきたので、暖炉の煙突掃除が済んでいない今も、いつでも気軽に茶を淹れることができる。


サラの出してくれるハーブ茶は、最近は毎回味が違っている。

どこで植えたか採ったかわからないが、いろいろな種類の葉を試しているようだ。

妙な味のときもあるので、多少のスリルを感じる。


「それで、あの人達をどうするの?追い出したりしないわよね?」


「ああ、それは無理だな」


俺が流民を追い出さない、と宣言すると、サラはあからさまにホッとした表情をみせた。

大人達だけならともかく、教会の前で遊んでいた、あの大勢の子供たちを見た後では、追い出すのは俺には無理だ。


ほとんど可能性はないが、彼らを他所の領地が受け入れるとして、そこまでの旅を女子供を連れて行くのは不可能だ。

街間商人の運賃は農民に払えるほど安くないし、歩けない子供は魔狼の餌食になるのが関の山だろう。


「じゃあ、みんなに農地をあげるとか」


「それも無理だな」


俺がサラの案を否定すると、今度は哀しそうな表情をしてみせる。

だが、無理なのだ。


そもそも、与えるとすれば村長の土地しかないが、あの土地は教会の財産である。

管理の権限は代官にあるが、売買する権利はない。


その意味では管理権限は代官である自分にあるわけだが、村長に代わって農地の耕作を指示できるか、と言えば全く自信はない。

政治的状況によっては数ヶ月単位でこの村を離れる可能性もあるし、そもそも自分は農業の素人だ。


「誰か、出来る奴に任せたい」というのが正直なところだ。


それまで議論には入ってこなかったキリクが、別の案を出してきた。


「入札でもやりますか」


財産としての土地が浮いているのであれば、村内で入札して所有者を決める。

代官は、新しい所有者から徴税する。

実家が商家のキリクらしい、割り切った提案ではある。


「それは、やりたくないな」


そもそも村長がこの領地で専横を振るうようになったのは、農地の集中が遠因である。

豊かな農家をさらに豊かにする仕組みである入札は、先々を考えると良い案とは思えない。


別の案が必要だ。

本日は18:00過ぎに更新します

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