第62話 チームに誰をいれようか
サラには勉強してもらいつつ、向かいに座って目を閉じる。
とにかく、冒険者の靴作りについて考えなければならない。
どのように、冒険者用の靴を低価格で普及させるか。
併せて、利権に群がる虎狼達を躱して自分の身を守るか。
この二つの命題を解決するアイディアが必要だ。
まず、前提条件として、俺は1人でビジネスを作り上げることはできるが
1人で守り切ることはできない、と認めることにした。
武力でも権力でも財力でも、俺は一介の冒険者崩れに過ぎない。
暗殺者を送られたら殺されるし、衛兵に捕まったら牢から出てこれないし、
職人を買収されたら打つ手がない。
だから、個人で利益を独占することは諦めることにした。
こちらもチームであたるのだ。
現代世界では、それを会社と呼ぶ。
もちろん、こちらの世界には会社法がないので
厳密な意味では、会社組織とは呼べない。
職業別の利益集団ではないので、ギルドとも呼べない。
街間貿易のようにリスクが高い交易をしているのだから、
おそらく相互保険的な会社組織の萌芽は存在している
と思うのだが、確かめたことはない。
とにかく、この事業にはバックが必要だ。
俺に手を出したら、誰々さんが黙ってねえからな、というアレである。
今のところ、周囲で一番バックになってくれそうなのは
剣牙の兵団の団長である。
剣牙の兵団がバックにいるとなると、冒険者に対する抑止は完璧である。
なまじの商人や職人も、直接の手出しを控えるだろう。
最近の街での彼らの評判を考えると、普通の貴族も手出しを控えるかも
しれないが、ジルボアに指摘されたように、俺は貴族の知識は全くない
ので、このあたりは感覚的なものである。
この案は一見、良さそうに見える。
だが、危うい。
俺は剣牙の兵団の、ジルボアの夢を知っている。
より大きくなり、強くなり、この街の英雄から、世界の英雄になるという夢だ。
夢の実現には金銭が必要だ。
そして、夢の実現のため必要とあれば、躊躇なく事業を売り渡すだろう。
それではダメだ。
バックの抑止力を、もう一段、深く考えなければならない




