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異世界コンサル株式会社(旧題:冒険者パーティーの経営を支援します!!)  作者: ダイスケ
第三十六章 印刷業で冒険者を支援します

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第611話 教会への貢献

良い流れの説明プレゼンに「それで?」と、水を差したのは、またも黒ヒゲ司祭だった。


「そなたの狙いはわかった。民の声を聞く。それもわかる。だが、民を導くべき聖職者たる我々に、その印刷業とやらがどのように有益なのだね?まさか、食事の改善ができるから、などという理由で賛同するとは思っていまいな?」


少しの苛立ちをみせて、机を指先でコツコツと叩きながら睨んでくる。


この方向でも不満か。食事が改善される、というのは十分な餌になると思ったのだが、日頃から贅沢な食事をしている聖職者達全員を納得させるには足らなかったようだ。


「もちろんでございます。ここまでの説明は、あくまで民の声を知っていただくため、その参考として説明させていただきました。ここからは、印刷業が、聖職者の皆様にとって、どのような意義があるのか。その点に絞って説明させていただきます」


さて、ここからが本番だ。


◇ ◇ ◇ ◇


「印刷業が、教会という組織にどのような貢献ができるか」


一度、言葉を区切り、注目を集める。


「はじめに、民の声を伝えるものである、ということを申し上げました。民の苦しみを救うだけでなく、民の日々の暮らしに寄り添い、喜び、欲するところを成す、そのための印刷業であり、日々の食事が充実するなどというのは、その一環であります」


これまでの説明の内容を軽くまとめて、次に説明する内容との対比の基準を作っておき、先を続ける。


「一方で、教会の責務として民を導き、教化するというのも、その重要な役割であります。印刷業は、その点でも貢献できるものと確信しております」


まず、何ができるのか。そこを主張しておく。


「神書を印刷する、というのか」


黒ヒゲ司祭が、得たりと噛み付いてくる。

要するに、彼が印刷業を敵と見做すのは、その一点にあるのだろう。

神書を印刷することで、神と信徒の接点を教会から取り上げるつもりではないのか、それが彼の疑念であり、恐怖だろう。


その点については、事前に想定した攻撃だったので、軽くかわしておく。


「その点については、教会の方々の様々なお立場やご意見があるものと伺っております。各地の教区における司祭様から信徒への働きかけは、教会にとって民に声を伝える非常に重要な接点であると認識しております。私としましては、教会内での統一見解がまとまるまで、そちらの点については触れないつもりでおります」


何を好き好んで宗教論争に巻き込まれなければならないのか。

そういった教会の方針については関与しない、という立場を予め述べておく。


「ならば、どのように役立つというのか」


それが不満だったのか、黒ヒゲ司祭が追求してくる。


「私が、どのような経緯で代官を頂いたのかは、ご存知でしょうか」


正面から返答せずに、相手がこちらのことをどの程度把握しているのか、確認の意味で質問してみる。


「枢機卿の靴を作ったそうだな。あとは、教会の印とやらを管理する事業に貢献があったとか。それがどうしたか?」


やはり、知っていた。まあ、教会組織でも優秀な偉い人たちだから、その程度は当然か。


「さようでございます。ですが、私としては代官に就任するのは、まだ先だと考えておりました」


多少、仄めかすだけで、相手もこちらの言いたいことを理解する。


「・・・ああ、あれか。なんでも、つまらんことをしでかした者がいたようだな」


村の一つを餓死させかけた事例を、つまらんこと、と切り捨てる感性には嫌悪を覚える。

だが、同時にそのことは別のことも想起させる。


「さようでございます。詳細は私のような身分の低いものには伝わってきませんが、中央で幅広い教区を管理されている皆様からすると、よくあることではないのかと、推察します」


要するに、汚職が頻発しているのだ。


「口が過ぎるな」


「差し出口をお許し下さい。ですが印刷業を認可いただければ、そのご苦労を劇的に減らすことができると信じております」


「ほう」


「具体的には」


これには、多くの司祭たちが関心を示した。

やはり、中央からすると地方でやりたい放題に汚職をする代官達は頭の痛い問題であるようだ。


「私が推進する印刷の特徴としては、高精度の、それこそ食品の絵のような詳細印刷が可能であることであります。これを応用しますれば、教会の文書を極めて偽造がしにくいものにすることができます」


文書の「偽造」という言葉に数名の司祭達が反応したのが見える。


「推察に推察を重ねて申し訳ございませんが、中央で各地の教区を管理するにあたりましては、地方への指示や報告が正確に伝わらないということがあるのではないでしょうか。出したはずの指示が捻じ曲げられている。地方からの報告の数字が改竄されている。魔術で封じた筈の封蝋が開封されている。そういったことがあるのではないでしょうか」


「なくはない」


黒ヒゲ司祭が、面白くなさそうに答える。


ここが、正念場だろう。どうすれば偽造を減らすことができるか。

あらん限りの方策を説明し、畳み掛ける。


「印刷技術は魔術ではございません。単純に高精度の印刷を大量にできる技術です。


例えば、教会の印章なりを非常に詳細な文様として印刷することで、偽造が困難になるのではないでしょうか。


さらに、文様の一部を毎月変更するなり、通しの番号をつけるなりすれば、さらに偽造は困難になります。


地方からの報告についても同様です。地方には予め中央から基本となる用紙を配布し、それ以外での報告を認めないようにすれば、かなりの程度、報告の偽造を防げるのではないでしょうか。


中央と地方の正確な情報の往還。これが、私の考える印刷業が教会に貢献できる方法であります」


一息に言い終えると、黒ヒゲ司祭だけでなく、ニコロ司祭を含め、なぜか全員の司祭が厳しい目でこちらを見つめていた。

明日は18:00に更新します

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