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第61話 孤独じゃない

とりあえず、涙を拭いたサラを連れて宿の部屋に行くことにする。

サラが赤い顔をしているが、何か勘違いしてそうなので無視をして

部屋の扉を開ける。


2階の宿は、仕事をすることも多いので机と椅子が二脚ある

広めの部屋をとっている。


サラを椅子に座らせると、テーブルに羊皮紙の束を、ドサッと置いてやる。

さすがに、様子が違うと思ったのか、サラが尋ねて来る。


「えーと・・・これは何?」


「仕事の記録だよ。

 俺は、駆け出し冒険者のツアーを始めてから、全ての記録をつけている。

 パン、チーズ、ビスケット、小麦、鏃、剣、鎧、買い物した際の時期、値段

 店舗を全て記録してるんだ。

 お前にも、記録をつけられるようになってもらう」


「うえー・・・記録しないとダメなの?」


「俺は、冒険者を始めた時から記録してる。

 いつ、どこで何が安いのか。何が起きたらモノの値段があがるのか。

 冒険者なんて根無し草だからな、モノの値段がわからないと見られて

 すぐにボラれる。その用心が、今の商売ビジネスの役に立ってる。

 だから、お前にもできるようになってもらう」


「でも、あたし、あんたみたいに字は読めないよ」


「わかってる。だからやり方を考えるんだ。

 人の名前と、モノの名前は書けるんだろ?」


「できる。あと数字も書けるよ」


「それだけできれば十分だ。貴族様向けの手紙を書くわけじゃない。

 モノの名前が縦の列に書いてあるだろ。上に案内した奴らの名前を書いて、

 モノの横に値段を数字で書くんだ。

 これならできるだろ?」


俺がサラに示したのは、一覧表だ。モノが縦列。横に案内者。

箱の中に価格を書いていく。

それだけの、現代世界では一般的な形式だ。


だが、無学な冒険者には一般的ではない。


この世界では、文筆は貴族階級などの教育を受けた者達の特権であり、

報告書は私信とも公文書とも取れない挨拶と事実と装飾の入り混じった

複雑な形式をとる。

当然、普通の庶民には内容を読んでも意味が掴めない。

俺が読んでも、意味がわからないだろう。


だから、俺がそんな形式を採用する理由もない。

誰にでも読めて、誰にでも使える平易な方式を使う。


サラは、初めて目にする表という書式に混乱していたようだったが、

一旦理解すると、目が嬉しそうに輝いた。


「これなら、あたしでもできそう!」


「そうだ。ただ、この表に入らない情報もある。

 それは一緒に行動する俺が書く。

 サラは、その間に字を憶えて、同じように書けるようになるんだ」


「・・・あたしでも、できるようになるかな」


「当たり前だろ。靴作りだって、お前なしではできなかった。

 字ぐらい、練習すれば書けるようになるさ」


他にも、サラでもできるように冒険者の依頼達成のチェック表や、

交渉時の冒険者の態度評価など、いくつも表を作る必要はあったが、

難しい文章を書かなくても報告書をつくれる仕組みはできあがった。


何より、これまで1人で行ってきた冒険者の支援が、孤独な職人作業から

チームを組んでの支援へと、一歩進めたことが嬉しかった。

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