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第601話 印刷業のビジョン

1つの問題を解決するだけで、他のすべての問題を解決できるような方法があるものか。

サラはあくまで懐疑的だ。


だが、経験的に言えば改革は一点を突破することに集中し、その後で展開するのがうまくいく。


言い換えれば、波及効果に基いて優先順位付けを行う、ということでもある。


改革の施策とは複雑に絡まりあった課題を解決するための補助線であり、全体が整理される創造性が求められる。


「4つの施策を並べてみると、共通点があるな」


「うーん・・・?」


サラが黒板に書かれた4つの施策を眺めて眉をしかめる。


・"冒険者が死んだ場合、遺族に連絡してもらえる仕組み”


・"駆け出し冒険者に正しい依頼の請け方を教える仕組み”


・”ノウハウや罠の作り方を共有する仕組み”


・”新しい仕組みを広告する方法”」


「どの施策も、情報を冒険者がインプットする必要がある。冒険者が死んだという情報、駆けだし冒険者が依頼を受けたいという情報、ノウハウや罠の作り方という情報。最後は少し性質が異なるかもしれないが、情報を知りたい冒険者がいる場所、という意味でインプットとしよう。


言い換えれば、4つの施策は冒険者の方からコンタクトを取ってもらうことで、初めて動き出す施策なわけだ。冒険者に動いてもらえなければ、制度を作っても役立たずに終わる、とも言える」


「ええと、前半は何を言ってるかよくわかんないけど、最後はちょっとわかる。あたしも冒険者ギルドに、いい印象なかったもの。何か言われても、また税金上げるのかとか、買い取り価格を下げるのかとか、そういう風に思うかも」


「そこだよなあ」


細かい施策をプロセスで考えていた時の違和感。

「本当にこの施策で駆け出し冒険者達は救われるのか?」という自らへの問いに、胸を張って「イエス」と答えられなかった点は、まさにそこにある。


おそらく、駆け出し冒険者の問題は冒険者ギルドへの登録前後に集中している。

施策の流れで言えば、1つ目と2つ目の間だ。


農村から出てきて、街という人間の集まりに圧倒され、初めての登録と役所の対応というものに戸惑い、村落共同体から切り離された街の個人としての生き方にうまく乗れなくて、落ちこぼれていくのだ。


ど田舎から上京してみれば、最初の職場が登録制で腕に命を賭ける自営業者フリーランスの集まりだったようなものだ。馴染めなくて当たり前だろう。


共同体しりあい不在いない、か・・・」


思えば、鍋を背負った3人組も、痩せっぽっちの2人組も、冒険者以外で街の人に親切にしてもらったのは、俺やサラが初めてだった、と泣かせることを言っていた。


そうであれば、泥臭いが解決策はある。


「相談所をつくるか。冒険者ギルドの中か隣にでも」


「相談所?」


「俺やサラが最初にやっていたことと似たようなことさ。あれを組織的、継続的にやるんだ。何か困ったことがないか。小さい子たちに声をかけて回る」


議論をしていてわかったのは、問題が発見できてさえいれば、解決策を考える自信はある。

一番の問題は、問題が埋もれたまま発覚しないことだ。


「冒険者ギルドがやればいいじゃない?」


サラが口を尖らせるのは最もだが、べき論で駆け出し連中は救われない。


「将来的には移管したい。だが、今の冒険者ギルドが引き受けるとは思えない。こちらである程度仕組みを整えた上で、ビジネス的に儲かるとなれば、事業の引取先はどこにでもある。問題は、最初の形をどうするか、だ」


「形って?」


「誰から金を取るかだな。具体的には、教会、貴族、大商人、高位冒険者。その4者の誰かから金を引き出して、仕組みを回したい」


「あの子達に字を教えるとか?そうしたら冒険者にならなくてもいいじゃない?」


「そうだな、悪くはない。だが、その場合は農民の子が賢くなることに価値を見出だせない教会や貴族から金は引き出せないな。時間もかかる。もう少し即効性のある、すぐに金が儲かって投資分が返ってくる、そういう商売ビジネスが求められるだろうな」


そのために印刷業を興す。印刷業に流れ込む資金と支出を、そうした仕組みを作ることに集中させる。

そう決心することで、ようやくニコロ司祭に立ち向かうためのビジョンが見えてきた気がした。

31日、1日、2日、3日の年末年始は休載とさせていただきます。

4日18:00より再開いたします。

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