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第60話 田舎にかえろ

厳しい顔つきで宿に戻ってきたケンジを、サラは驚いて出迎えた。


「あれ、ケンジ、サンプル靴の評判はどうだったの?悪かったの?」


「いや、良かった。むしろ良すぎたよ」


「じゃあ、なんで眉間に皺が寄ってるの?」


と自分の眉間を指して言う。


俺は、それに取り合わず聞いた。


「サラ、お前、数字は数えられるか?」


「え、うん。ツアー紹介でお金を貰うようになって、数え始めたよ。

 何人紹介して、誰の分を貰ったとか、ちゃんと書かないと覚えられないから」


「字はどのくらい書ける?」


「えー・・・人の名前と、モノの名前くらいなら」


「よし、サラ。明日から、冒険者かけだし向けのツアーには、

 お前も同行するんだ。1日につき、追加で銅貨を1枚払う」


現状、サラは紹介で1日に銅貨2枚を稼いでいるから、

1枚のボーナスは大きい。

街の外の依頼と違って、命の危険もなければ矢や装備の消耗もない。


案の定、サラは目を輝かせて立ち上がった後、怪訝そうに訊ねた。


「いい話だけど、どういう風の吹き回し?」


俺は軽く答えた。


「ああ、そのうち俺が死ぬかもしれないからだ」


サラは、眼を見開いてしばらく言葉を失った後、

涙を流しながら、突然に抱きついてきた。


思わず、持っていた靴を取り落とす。

予想外の反応だったが、しばらく背中を撫でてやっていたところ

サラがグスグスと鼻を鳴らしながら妙なことを言いだした。


「ね、もう田舎かえろ?持ってるお金で家畜と畑買って、農家やろ?ね?

 あたし、ついてってあげるから」


まてまて。この世界に、俺の田舎はねえ。

それに、お前はどこの演歌歌手だ。


「落ち着け、サラ。実際に危険なわけじゃない。覚悟の話だ。

 それに、普通に考えれば冒険に出て街の外で怪物を狩ってる

 お前の方が死ぬ確率は高いだろうが。


 そもそも、俺の膝じゃ農家はやれねえよ」


「だって、なんか悪いことして危ない橋をわたってるんでしょ?」


お前のイメージする俺はなにものだ。

マフィアか、なにかか。


「靴の話だよ。あまりに上手く行きすぎて、エライ貴族様や商人と

 揉めるかもしれない。

 それに、しばらくは靴にかかりきりになる。


 だから、駆け出し冒険者向けのツアーを、お前に任せたいんだ。

 もちろん、いきなり全部を任せるわけじゃない。

 しばらくは、一緒に回ってやり方を憶えるんだ。


 依頼を受けるよりも、こっちを優先して欲しい。

 やる気はあるか?」


サラは涙を拭いて、笑顔で言った。


「あるわよ!いっぱい銅貨を稼ぐわよ!」

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