第580話 少しずつだとしても
小さな誇りを持つ冒険者の機嫌を損ねないよう、もう少し話を聞いてみる。
「それで、戦闘中はどうしてるんだ。ゴブリンの巣を掃討するとなったら、今の装備では前に出ていけないだろう?」
武器の方は、まあまあ揃っているとしても、ゴブリンは数が多い。
彼らの腕では、防具が必須だ。
戦闘力を冷静に見積もれば、3人一緒に戦ってゴブリン2匹を相手にするのがせいぜいだろう。
怪我をせずに余裕で戦えるのは、1匹ぐらいか。
「自分達は、その薪や枝を取ってきたり、巣穴の前に積んだりします」
そういえば、剣牙の兵団も同じようにゴブリンの巣の前に枝を積んで燻しだしていた。
あれが巣穴の怪物を退治する標準の手順なのだろう。
少年たちは、手元の斧や鉈で枝をはらうことができるので、武器を扱う戦闘力よりも道具を使う労働力を期待されて参加した、ということらしい。
「あとは、火をおこすのが得意です。ずっとやっているんで」
なるほど。
野営で手早く火をおこせる能力は重要だ。
冒険者という連中は気が荒い。
依頼中の気が立っている時にモタモタしていると殴られたり蹴られたりすることも珍しくない。
逆に気が利いてよく動く働きのいい年少者は可愛がられる。
3人組は、可愛がられる側として、よく働けているようだ。
「分配はどうだ。報酬はきちんともらえているか」
彼らが年少者なりに一生懸命に頭を使って、冒険者という社会で生きていることはわかった。
だが、それで十分な報酬を受け取ることができているのか。
そこが問題となる。
「ええと・・どうだったかな」
鍋を背負った少年が迷ったのを見て、鉈を下げた赤毛で縮れ髪の少年が代わりに話しだした。
そばかすの浮き出た彼が、このグループで金勘定を担当しているらしい。
「依頼は5日間でした。だから1日銅貨1枚で1人銅貨5枚。依頼の成功報酬は3人で大銅貨2枚でした。戦った大きい人達は1人で大銅貨2枚でしたから、少し少ないです。でも戦ってないし、若いから減らされたかもしれないです。あと食事を作っていたので、麦を結構もらいました。たぶん5日間ぶんぐらい」
「それで、足りるか」
「次の依頼までは食いつなげます。怪我もしなかったし、そんなに悪くない依頼でした」
そう。彼らぐらいの冒険者だと、依頼で儲かったりはしない。食いつなげるだけだ。
怪我でもして依頼をこなせなくなれば、たちまち困窮する。
そういう暮らしだ。
「そうか。他の依頼で困ったことはなかったか」
「大人達が多いし、俺達は麦を背負っていくのでついて行くのが大変でした。あとは、やっぱり怪物が怖いです。冒険者だからそんなことを言ったらだめなんでしょうけど、同じくらいに冒険者になった奴等が何人も死んでます。もっといい防具が欲しいです」
怪物の鞣した皮を貫頭衣のように被ってはいるが、オイルで煮込んだハードレザーではないようで武器を持った怪物相手には防御に不安がありそうだ。
足元がサンダルというのも、魔狼を相手にするには不安がある。
「冒険者をやめたいと思ったことは?」
「村に戻っても畑がありません。妹達に仕送りしてやりたいけど、そうなれるか自信がないです。でも、俺達みたいな農民が街で稼ごうと思ったら、冒険者以外に食っていくやり方がありません」
この赤い縮れ毛のそばかすは、自分達の置かれた状況がわかっている。
村を出てきたばかりのサラも、こんな感じだったのだろうか。
「そうだな。つまらんことを聞いた。これは話を聞かせてくれた礼だ。いいもんを食って少し太くなれ」
財布から大銅貨1枚を渡す。あまり大金だと周囲の冒険者たちに奪われる危険があるし、冒険者としての矜持を持って生きている少年たちの意気を侮辱することになる。
「困ったことがあれば、革通りの工房まで来い。力になってやれるだろう」
余計なことではあっても、つい声をかけてしまう。
もし怪我をして冒険者をやめるのであれば、工房で雇ってもいい。
冒険者ギルドを出てしばらく歩いていると、護衛についたキリクがぽつりと言った。
「ああいう小僧が冒険者をやるってのは、やりきれませんな」
「そうだな。だが、じきに状況が変わる。きっと変える」
あんな細い手足をした子供が農村から出てきて、わけもわからないうちに怪物と戦う社会の仕組みは間違っている。
将来のことをしっかりと考えるだけの頭をもった縮れた赤毛の彼は、冒険者などではなく商家に生まれていれば、もっと世の中に役立つはずの人間だ。
だから、社会の仕組みを変える。それが少しずつの歩みであっても。
本日は22:00にも更新します
⇒すみません。なろうサーバーがあまりに不安定なので22:00更新はパスさせてください。
明日は18:00に更新します




