第56話 イケメンの力量
団長室で、挨拶の後に机を挟んで座ると、
若い娘さんがお茶を淹れてくれた。
「どうぞ」
どうも、と言いかけ、驚いて顔を向ける。
何で、このムサイ事務所に若い女性がいるんだ?
視線でスイベリーに問いかけると
「ああ、彼女達は、近くの商店の娘さん達だよ。
空いた時間に、うちの掃除なんかを交代で手伝ってくれるんだ」
「だってぇ、剣牙の兵団さん達は、街のために頑張ってくれてるんでしょ?
私達だって、何かしたいんですぅ」
殊勝なことを言う娘さんだが、目には「団長さんカッコいい」と書いてある。
まあ、イケメンはいつも正義だから仕方ない。
それにしても、たった30日程度で、驚くべき変化だ。
剣牙の兵団の露出を上げるようアドバイスはしたが、ここまで短期間で
大きく変化するとは思わなかった。
「団長、一体、何をしたんだ?」
「なに、ケンジが言ったとおりのことさ」
ジルボアは、手始めに歌から手をつけた。
吟遊詩人を10人程まとめて呼んで、報酬を示し、団員達の前で競わせたという。
早期に歌を決めると、その吟遊詩人を団の専属にし、行軍や訓練で団員に歌わせるようにした。
そこまでした上で、傭兵時代のコネを使って儀典局の専門家に騎士団の出陣式の手順を教わり、
さらに演劇で演出をしている人間を雇い、出陣式を簡略化した上で、上品な市民に受けるよう
セリフ回しや、動作を訓練してもらったようだ。
そうして、10日ほど前から出陣式と凱旋式を行っている。
街の娯楽に飢えた市民には、大変な評判を呼んでいるようだ。
ときたま、貴族の私兵や騎士が行う形だけの式典とは、迫力が違う。演出力が違う。
何しろ、巨大な怪物の首が荷車で運ばれてくる。
団の戦士たちの武器や鎧には、激闘を物語る本物の勲
が刻まれている。
そして、イケメンの団長が演出された格好いいセリフ回しで演説をする。
団員達が盾に剣を叩きつけて応え、足を踏み鳴らす。
街の市民達は、剣牙の兵団の実戦的な格好良さにスッカリ参ってしまった。
その結果が、街娘達の、事務所でのお手伝いというわけだ。
男性ばかりの組織に女性が入ると、劇的に雰囲気が変わることがある。
切欠を作ったのは自分だったが、実際の場面を見ると妙な気分だった。
別にイケメンを僻んでいたわけではない。




