第55話 剣牙の兵団再訪
剣牙の兵団ほどの一流クランともなれば、依頼で忙しい。
常に街にいる可能性は低い。依頼で外征することも多い。
しかし、冒険者ギルドにいる連中の噂で、剣牙の兵団の所在について
簡単に確認できた。
というのも、最近、剣牙の兵団は依頼で外征する前に、
出陣式のようなものを行っているらしい。
その様子が勇壮だというので、街の市民に人気がでているようだ。
団長の見た目も、人気に拍車をかけている。
街娘の中には、さっそく入れあげている者達もいるようで、
団長が演説すると黄色い声が飛び交うらしい。
ジルボアの奴、早速はじめたな、と俺は嬉しくなった。
貴族達も、自分達の依頼が街の市民の前で説明されるのは気持ちがいいし、
市民からの支持を得ることに繋がると見て、
冒険者風情が騎士のような出陣式を行うことを、大目に見ているらしい。
だが、実際のところは街のゴロツキ相手にしか役立たない衛兵や
貴族の私兵が、強大な怪物達を殲滅する精鋭にビビっているのではないか。
現代世界風に言うと、対物ライフル、分隊支援火器、
対戦車ミサイルの重装備で固めた30人のPMC(民間軍事会社)を、
街のお巡りさんに注意をしろ、というようなものだ。
常識ある人間なら、俯いて目が合わないように祈るか、
急に窓の外の天気が気になって他所を向こうというものだ。
職務の範囲内でできるベストは尽くすが、それ以上のことは
見て見ぬふりをした方が、お互いに幸せになれる。
剣牙の兵団の所在が確認できたので、俺は2等街区にある
連中の事務所を訪ねることにした。
相変わらず金回りの良さそうな事務所だが、前回と雰囲気が違う気がする。
なんだろうか。
声をかけて扉を開けると、副長のスイベリーがいたので声をかける。
「ひさしぶりだな。スイベリー副長、元気だった・・・か・・・?」
スイベリーだが、何というか、まるで別人だった。
容姿の何が変わった、ということはないのだが、全体的に小ざっぱりして
目に力があるように見える。
「おお。ケンジ、よく来たな。団長なら奥だ。案内しよう」
「あ、ああ・・・」
事務所の中も、団員達も、心なしか明るく小奇麗になっている気がする。
気のせいだろうか。
多少、ペースを狂わされながらスイベリーの案内で
団長室へと案内されたのだった。




