第520話 思いつきの形
先程の思いつきを形にするために、休憩している新人官吏達に話しかける。
まずは実態の把握からだ。
「どうだろう?何か困っていることは?」
忙しい現場にとってありがたい上司とは、現場をサポートしてくれる上司である。
仕事を押し付ける、文句以外は役に立たない、と見限られると途端に情報が上がってこなくなる。
よく不祥事を起こした会社の幹部が「聞いていない、知らなかった」という言葉を口にすることがあるが、それは「報告するだけ無駄」と思われていた証左であり、恥じるべきである。
「大丈夫です」
パペリーノからは問題ないと返事が返ってきたが、その言葉を、そのまま信じては管理者として失格と言える。
参加者、運営者、話される内容、全てが初めてづくしのイベントなのだから、問題が発生していないわけがない。
「大丈夫」という回答は、問題が発生しているが大した問題ではないと本人が考えているか、発生している問題そのものを見過ごしているか、どちらかの可能性が高い。
なので、質問を漠然とした内容から、具体な項目を質すものに変える。
「今、何人目が発表しているのか?」
「2人めです」
「わりとゆっくり目の進行だな。やはり説明に苦労している感じかな?」
「いえ、1人目から議論が白熱して・・・」
質問が具体的なところに踏み込んでくると、回答も具体的になってくる。
「どうだろう。議論も並行して進めた方がいいだろうか?それとも説明だけは先にした方がいいだろうか。実態に合わせて時間と段取りを変えようと思うが」
返答に対し、こちらがサポートする姿勢を見せると、パペリーノは目を見開いて見つめてきた。
「なにか?」
「いえ。最初の説明の通りに進めろ、と叱られるとばかり思っていたので」
確かに予定としては、説明を一通りしてから議論に入るものとしていたが、全員の事業に対する理解度が高いのならばさっさと議論に入ってしまっても構わないわけで、実態を無視して予定通りに進めろというのは本末転倒である。
「ただ、最初から議論が続くと全体像が見えなくなる懸念はあるな。そのあたりは、どうやってフォローしたらいいだろうか?」
一応の懸念を伝え、こちらでサポートできることがないか考えてもらう。
「そうですね。いいアイディアが出ても、議論をしているうちに流れていったりすることもありますし、最後に改善のアイディアを出すにしても、絞込みの途中で消えるアイディアは勿体ない気がしますね」
なるほど。要するに専門家同士の議論のアウトプット方式を変えたいということか、と理解する。
最終の改善アイディアだけでなく、途中の中間成果物にも価値がある、と見えているわけだ。
「少しやり方を変えるか」
最終成果物の発表で競争だけでなく、中間成果物も競争と賞金の対象にする。
その仕掛けを考える必要がありそうだ。
しばし腕を組んで、説明内容と必要な道具を用意する手順を考えてみる。
現場に負担がかからず、理解しやすく、今すぐにやれることはないか。
「なんとかなりそうだな」
考えをまとめると、教会に頼んで事務所から職人を呼んできてもらうことにする。
本日は18:00にも更新します




