第52話 靴の仕様を決めよう
冒険者ギルドの件が少し精神的に落ち着いたので、
改めて冒険者向けの靴製造のスケジュールを考える。
まずは、冒険者向けの靴の仕様を固める必要がある。
設計は簡単だ。俺が現代世界で履いていた靴がある。
それをパーツ毎に分解すればいい。
転移したときは雨の日で、カジュアル・フライデーだったので
チノパンの下にショート・ブーツを履いていたのだ。
今、俺が履いているこちらの世界で製作した靴は、その靴を模して作っている。
ただ、一品モノなのと、細かな修正を繰り返したので履き心地は良いが
量産向けになっていない。
元の世界の仕様を下敷きにして、こちらの世界で俺が作った靴の技術力に合わせ
サラに仕入れてもらった怪物素材の皮革の特性や価格を考慮して、部品ごとに
型を取らないといけない。
自分専用の靴を作る過程で苦労したので、製造上の困難な点はわかっている。
靴の底板に、左右足型別のアーチと踵をつくること。
靴底のゴムの代替素材を探すこと。
靴の底板と靴底を貼り合わせる強力な膠を用いること。
インソールを作ること、その素材を探すこと。
足の甲に当たる柔らかいベロ(名称は知らない)を作ること。
つま先に鉄板を入れるか、頑丈な皮革を用いること。
靴下を履く、という習慣も合わせて導入すること。
新規技術のオンパレードだ。
靴の歴史を300年は先取りしている。
ただ、数え上げると技術的に難しい点が多いように見えるが、
実は革鎧を作る難易度とあまり変わらない。
まあ、たかが靴の製造に革鎧と同じ手間をかける、というのが、
この世界の常識からは外れているのだが。
それを、低価格で提供するために単純な部品毎に別々の工房に発注し、
最終組み立ては自分達で囲い込んだ職人のところだけで行う、という
マニュファクチャリング方式が、今回の商売の肝だ。




