第50話 冒険者ギルドの仕事顛末
「で、どーすんのよ、ケンジ!」
「どうもしない。今まで通りだよ。」
「だって、駆け出し冒険者にあたしが案内しようとすると、
ギルドの職員がジャマすんのよ!
うちが無料で案内します、とか言って!」
「大丈夫だよ。まあ、見てろって。あと数日で客は戻るから。」
俺は、宿屋の一階でいきり立つサラを宥めていた。
予約の数は減ったが、リピーターもいるので
1日に2件のペースは守れているし、
案内人数も10人の線はキープできている。
数字を見る限り、経営に影響はない。
サラへの営業報酬も銅貨2枚は、毎日払えている。
今のところ実害は、ギルド職員の案内が目障りなだけだ。
それに、冒険者ギルドは、駆け出し冒険者のニーズが全く分かっていない。
どうせ、すぐに破たんする。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
俺の予感は、あっという間に現実になった。
一度は冒険者ギルドの無料案内サービスを受けた連中が、
俺のサービスに返ってきたのだ。
ちょうどいい機会なので、サラも同席の上で、
なぜ無料サービスをやめたのか聞いてみた。
「だってよ、無料だっていうからついて行ってみれば、
高い食いもん買わされるだけでよお、
持って帰ってきた素材も買いたたかれて、そんで終わり。
なんもサポートされてねえし。そのくせ、予約とかうるせえし。」
「そうそう、あのハゲ、偉そうなんだよな。
俺達が字が読めねえからって、陰で馬鹿にしてやがる。」
それだけで、俺には冒険者ギルドが何を考えて、何を失敗したか理解した。
連中は、俺の行動だけを見て、駆け出し冒険者向けツアーを
「田舎者が店で食品を安く買うサービス」だと
とらえたから失敗したのだ。
買い物先に指定された食品店も、便乗して値上げしたのだろう。
職員とつながってリベートでも取っていたかもしれない。
字が読めない冒険者向けの予約票なども作らなかったに違いない。
腐ったお役所のやりそうなことだ。
実際に俺がやっているのは、冒険者の運営を訓練するサービスだ。
冒険に必要な準備を共有し、話し合う。
一緒に行動し、お互いの準備や経費を知る。
現状回復費用を先に清算し、残りを公平に配分する。
田舎の農民あがりが身に着けてこなかった、冒険者としてのチームワーク練習、
という見えない支援の価値が理解できていないわけだ。
本質を理解していない、形だけ真似をしたサービスだから失敗する。
まあ、ギルド職員自身が、そんなことはできないのだから、
理解できないのは当然である。
お役所仕事しかしてこなかった連中に、新しい仕事はできない。
そんな当たり前の教訓だけを残して、冒険者ギルドによる駆け出し冒険者向け
サポートは短期間でひっそりと、そのサービスを終えることになった。
俺としては、ムカつく窓口のハゲに会うたびに
「その後、サービスはいかがですか?お互いに頑張りましょうね?」
と笑顔で挨拶するのが楽しかったのだが、残念だ。
もう少し赤字で頑張ってほしかった。




