第481話 歴史の重み
すみません、公開時間を間違えていました
「最初の試みだから、ある程度はこちらで発表項目について案内したほうがいいだろうな。依頼主が事業の進め方について専門家に説明を求めるのであれば、あまり抵抗がないのではないか?」
「そうですね。大抵の教会や熱心な貴族様は、依頼する際に専門家に説明を求めることは多いようです。代官様の場合は、最初に専門家へ説明をしようというのが異例だとは思いますが」
「最初に事業全体の説明をしないで、何とかなるものなのか?」
「そうですね。代官様のように新しいことをしないのであれば、前例に倣っておけば問題ないことも多いですから」
クラウディオが説明するには、新興の貴族というのは滅多にいない上に、伝統ある貴族の古い領地は何十年、ひょっとすると何百、何千年の昔から耕作が続けられているという。
「歴史の重みというやつか・・・」
思えば、俺はこの世界の歴史を学んだことがない。
そもそも、その手の知識にアクセスできる環境がなかったので仕方ない側面はあるが、この世界に生きる人達にも積み重ねた歴史があり、伝統がある。
そのあたりの重みを軽々に扱えば、思わぬしっぺ返しを受けるに違いない。
「ニコロ司祭様は、代官様に新しい風を求めておいでだと思います。余程のことでなければ、特に咎めはないものと」
「咎めがある時は、胴体から首が離れるときだよ」
あるいは、磔刑に火炙りか。
いずれにせよ、碌なことではない。
苦笑して肩をすくめてみせる。
「こちらからの説明自体は歓迎されそうだが、専門家同士での話し合いに抵抗はあるだろうか」
「それは、あるでしょうね。そもそも、現場でも専門家同士は仲が悪いと聞きます。個人となれば違うのかもしれませんが、作業では集団ごとに固まって、声をかけずらい雰囲気があるとか」
元の世界でも、大規模プロジェクトになると複数の会社が交じる現場になることは珍しくなかった。
そして雰囲気の悪いプロジェクトでは、会社ごとに集団が固まっていて、他の会社の人間と話すとスパイ扱いされたり、ということもあった。
大抵、その手の雰囲気のプロジェクトは失敗していた。
「それでは、依頼主が説明を求めているので、その説明の間は全員の参加を求めるという形式ならどうだ」
一足飛びに話し合いまで持っていけないのであれば、せめて説明を共有したい。
まずは依頼主からの説明として全員を集める。
そして、その場で各専門家に依頼主への説明としてされる発表を、全員が聞く。
退席や不参加は依頼主の名において認めない。
「その形であれば、まあ・・・反発はあるかもしれませんが、可能です」
「多少の反発はかまわないさ。自分が悪役になることで現場の横の連携が取れるようになれば、安いものだ」
依頼主と現場はコミュニケーションが取れている必要はあるが、ある程度の緊張感はあることが望ましい。
依頼主への愚痴で、現場の者同士で酒を酌み交わすようにでもなってくれれば、それでいい。
「酒席を設けるか。無論、説明会の後だが」
「ははあ・・・それは無論、彼らは喜ぶと思いますが教会では難しいと思います」
「なぜだ。俺は大聖堂まで呼び出されて饗応を受けたぞ」
あの時はニコロ司祭に呼び出され、周囲の聖職者達にネチネチとご下問を受けたのでロクに味は覚えていないが。
だが、思わぬところから反応があった。
「ええ!ケンジ、そんなこと言ってなかったじゃない!」
「まあ、代官になれ、と言われたからな。それどころじゃなかったんだよ」
「いいなあ・・・教会の偉い人達って、どんなもの食べてるのかしら」
「ワインが出た。あとは肉料理中心だな。どこのどんな肉かは、正直よくわからんかった。ソースはいろいろあったな」
「あたしも食べてみたい・・・」
とりあえず庶民には教会が提供する会食が魅力に映ることはわかった。
何らかの形で実施することは考えたい。
本日は18:00にも更新します




