第48話 剣牙の兵団の評判
その日の午後、駆け出し冒険者達のツアー案内のため
冒険者ギルドへ出かけると、ギルド内の空気が少し違っていた。
新米だけでなく、中堅の冒険者達も俺を見て何かザワザワとしている。
いつもの席で待ち合わせに座っていると、
顔見知りの中堅冒険者の一人が、話しかけてきた。
「なあ、ケンジ、剣牙の兵団に誘われたってホントか?」
情報が早いな。まあ副長のスイベリーが直接訪ねてきたわけだし、
サラの奴があれだけ大声で吹聴すれば
噂が広まるのも時間の問題か。
「確かに誘われた。まだ、返事はしてないが。」
「な、なあ、俺を剣牙の兵団に推薦してくれよ!腕には自信があるんだ。」
推薦。そう言われて、俺は改めて剣牙の兵団の評判に驚くと共に、
自分の立ち位置を確認する思いだった。
なるほど、自分は駆け出し冒険者と一流クランを繋ぐ
ポジションにいるのだ、と。
ことさらに意図したわけではないが、この街の新人冒険者は、
大体が俺のツアーを利用している。
そして、冒険の結果を俺は記録につけ続けている。
記録には、冒険の内容、成功、失敗、負傷、死亡などの
記録と要因もメモしている。
そして、全員の買い物に付き合う中で、ほとんどの連中の顔や体つき、
交渉時の応対などの情報も記憶している。
つまり、どの新人が有望なのか、大量のデータを俺は持っていることになる。
これは、商売になりそうだ。
だが、人材を推薦するほどには剣牙の兵団から信頼されているわけではないから
またの機会まで待つべきだろう。
そう判断して、中堅冒険者に向き直る。たしか、ポールとか言ったっけ。
「ポール、俺もまだ剣牙の兵団の人と少し話しただけなんだ。
推薦なんて無理だよ。」
「そ、そうか・・・。邪魔したな。」
ポールは肩を落とすと、テーブルから去っていった。
その様子を見ていた、他の冒険者連中も、関心をなくしたようだ。
ギルド内のザワついていた空気が、普通に戻る。
剣牙の兵団の評判、すげえな。
靴の商売には、必ず噛んでもらわないとな。




