第47話 おっさんは若い女が好き
一人、残った俺は地道に馬車を種類別に数え続けていた。
もうすぐお昼になる頃、サラは満面の笑顔で帰ってきた。
「お昼は、肉のスープにエールをつけて!あと、厚切りのハムを
3切れはつけてもらえるかな?」
「強気だな。」
「へへ、すっごい、いろいろ聞けたよ!」
と機関銃のように話し始めた。
「まずね、入口のところのドーンズさんは、皮の切り取りやってるんだって。
なんか、人型の皮とか見せられて、すっごい気味悪いの!
悪趣味だよね!だから奥さんも、あんまり仕事場に来ないんだって!
でも娘さんが大きくなってきて・・・
「それで、最近は景気悪いんだって。
馬車も減ってて、だけど2等街区の一流クランから、最近デッカイ仕事が
あるらしい、って噂があるから、職人さん達を頑張って抱えてるみたい・・・
「それから奥の2通り目のカルランさんとこは、皮の脂とか肉を薬品で落とす
仕事してて、魔物によって使う量とか漬ける時間が違うから、すっごい難しい
らしいよ。職人さんの一人が、うっかり手に薬品かけちゃって、すごい騒ぎに
なったんだって・・・
「塩洗い屋さんやってる、ラルフさんって、おじさんがいて、
塩が盗まれて困ってるって言ってた。
なんか、すごく体に悪い塩だから絶対食べちゃいけないのに、
食べられると思って持って行っちゃうんだって・・・
革の色付けやってるカールセンさんて、おじさんが言ってたけど、今の流行りは
赤だって。そういう鉱物が見つかったらしくて、安いけど鮮やかな色がでるって
いってた・・・」
こんな調子で、サラは革通りの内情を喋り続け、その玉石混交の情報を
俺はひたすらメモし続けた。
サラのようなタイプに順序立てて話すように促すと、せっかくの情報鮮度が劣化
する怖れがある。とにかく、喋りたいように喋らせるのがいい。
情報の整理は、後回しだ。
小一時間ほどたって、少しサラの言葉が落ち着いてきたころ、
俺は呆れて言った。
「・・・サラ、お前すごいな。」
「でっしょーーっ。」
ドヤ顔で胸を張って、腹を突き出すサラ。
だが、それだけの働きはしたと認めざるを得ない。
おっさんは、若い女に弱い。
革通りのように、臭くて街の人がよりつかない場所で作業していたムサイ
おっさん達のところに、若くて元気な女の子が、仕事に関心を持って
訪ねて来てくれたのだ。
おっさん達は、さぞかし鼻の下を伸ばして、一生懸命に説明したことだろう。
俺が同じ行動をしたら、そうはいかない。
怪しまれて叩き出されるのがオチだ。
サラを連れて来て良かった。
こうして俺達は、サラの活躍のおかげで、ごく短時間で苦戦することもなく、
革通りの主要な工房、職人の名前、よく使われる怪物素材、
景気の動向、流行りの染料、そして娘さんの誕生日や奥さんの不倫の噂などの
情報を手に入れることができた。
果てしなく、納得はいかないが、おっさんが若い女に弱いのは
自然の摂理なので仕方ない。
現代世界にいたときも、難しい仕事には新卒の女子社員を連れていけ、
と言われたものだ。
下手に考えるよりも、体当たりで突っ込んでいくことで結果が出ることも多い。
サラには昼食に肉のスープとハムを3切れ、エールを奢り、匂い落としのためにサウナへ連れていき、協力代金として銅貨3枚を払った。
 




