第446話 何のために働くのか。どんな意味があるのか。
新人官吏達のモチベーションについては気になるが、今後の仕事について全体像を説明する。
いったい自分達は何のために働いているのか。自分の働きは全体の仕事の中でどんな意味があるのか。
仕事を指示する者は、指示される側の2つの疑問について、常に明確な答えを持ち、メッセージを発し続けなければならない。
「新しく加わる仕事について説明する。大きくは4つある。
1.測量と畑の区画整理、2.艀と水車小屋の建設予定地の整地、3.労働者の確保、4.技術者受け入れ調整だ。
まず新領地においては、畑の測量を行い、区画整理をする。これにより畑の生産性を上げる。
次に、将来の小麦粉製粉需要を見越して水車小屋と、水運のための艀を建設する。
いずれも土木工事として人手が必要だ。それを確保する。
測量、建設には専門の技術者が必要だ。そういった専門の人員は教会から派遣される。彼らの賃金は高額で忙しい。その人数と時期についても調整の必要がある」
「1の測量と畑の区画整理については、元々の計画がありますが」
ロドルフからすると、一生懸命に立てた計画に見直しが入るということに抵抗があるのだろう。
だが、計画を立てた時とは状況が変わったのだ。新しい状況に応じた新しい計画が必要だ。
「それは、前代官と村長がいた時のものだろう。今、村の指導層はある種の空白状態だ。いい機会だから徹底的にやる。村人との摩擦は気にしなくてもいい。最高の効率を出せる計画に作りなおすように」
シオンからも意見がでる。
「労働力についてですが。その、村人に仕事を与える意義はわかりますが、ひどい税で痩せたり弱ったりした村人も多いと思うんです。そんな人達に土木工事に従事しろ、というのは過酷じゃないでしょうか」
いくら賃金を払うとはいえ、痩せた村人を酷使しているという評判が立っては福祉政策が台無しになる。
施策の結果について想像が働くようになっているのは、いい傾向だ。
「村には、たくましい男の労働力がいるじゃないか。正確には、いた、というべきだろうが」
「いた・・・ひょっとして冒険者になった者達のことですか」
「ああ。村から出て行ったとはいえ、全員が成功しているわけでもないだろう。行方についても追跡して、その意思があれば村のために帰って働いてもらってもいいのじゃないか」
「それって・・・」サラは言葉を続けようとするが、うまく出てこないようだ。
「そうだ。村を出て行った若者が無事に村に帰ってくるんだ。整地に建設、水運と艀が稼働すれば荷運びの仕事が必要になる。力の強い男手は幾らあっても困らない」
村から追い出されるように出て行った若い男達が、村に必要とされて胸を張って帰ってこれる環境を作る。
冒険者とならなくても暮らせるよう村の産業を興す。
この領地で雇用できる元冒険者の人数は多くはないかもしれないが、村から出て行く一方であった冒険者が村に戻ってくることの意義の大きさは、元冒険者のサラには理解できるはずだ。
「技術者の調整というのは、どういった形になりましょうか」
クラウディオが、教会との調整を買って出る。
「例の板切れを使った計画だな。あれを用いて、各土木工事の計画を立てるんだ。それで、どの時期に専門の技術者をどのくらい派遣してもらえれば実行できるのか、計画をしてもらいたい」
「どれも、大変な事業になりますね」
「ああ。だが、確実に領地は豊かになる。農民の生活は改善されるし、農村を飛び出した若者の死人も減らせる。忙しいとは思うが、全員には努力してもらいたい。この計画はニコロ司祭も注目している。この領地で成果がでれば、王国にとどまらず教会の威光の届くところ、全土に広まるだろう」
「実現できれば、それは神の約束した楽園となることでしょう」
聖職者というのは、いちいち表現が大袈裟だ。
「ああ。そして、数年後にはお前達全員が所属の組織の元で、ここで学んだ方式を持ち帰り、広める仕事につくことになる。そのつもりで取り組んでもらいたい」
気がつけば、新人官吏達の目に浮かんでいた忙しさを倦む気配は去っていた。
これだけの大きな事業になれば、俺一人で回すことはできない。
全員のチームワークと協力がどうしても必要だ。
「休みはやれないから、せめて待遇はあげないとな・・・」
幸い予算はある。賃金については、追加で弾むべきだろう。
明日も12:00に更新します
⇒すみません。更新日時を誤って18:00にしていました。




