第430話 女はつらいよ
投票いただきありがとうございました。
twitter投票も含めた結果、僅差でしたが「サラちゃんのこんさる日記」を先に書くことにしました。
選ばなかった方の話も、本編の区切りのよいところで、後日書くことにします。
およそ6回ぐらいの長さになる予定ですが、終わりまで書き上げていないので前後するかもしれません。
時系列的には、結構前の話です。
その日、冒険者の弓兵であるサラは冒険者ギルドで依頼を受けることもなく、朝から宿屋で麦酒を飲んでいた。
近頃、元パーティーの剣士が始めた商売の手伝いで小銭が入るようになり、すっかり冒険に出る意欲が減っているのだ。
「だって、新しいパーティーが見つからないんだもの・・・」
サラは誰にともなく言い訳するかのように、独り言を呟いた。
傍から見た絵としては、朝から酒を飲んでくだをまくダメな冒険者そのものである。
一応、サラにも言い分はある。
前のパーティーを喧嘩して飛び出してから、元のパーティーの連中があることないこと言い触らしているらしい。
噂を打ち消そうともしたのだが、言いふらす口の方が多く、こちらは1人だけである。
ギルドの中で揉めていたものだから、その様子を見ていた人間は多いが、人は信じたい噂、面白い噂を信じるものだ。
農村育ちのサラは、他人の悪口を言ったり広めたりする行為には躊躇いもあって、噂を打ち消しきれずにいる。
結果として、新しいパーティー探しが思うように行かない。
昨夜も加入を断られたばかりだ。
他にも、サラにはどうしようもできない事情があった。
「女が入るって、めんどくさいのよねー・・・」
ということだ。
冒険者になる女性というのは、極めて限られている。
もともと冒険者というのは力仕事である上に、荒事でもある。
サラのように弓の腕という特殊な技能を持っていなければ、女性が就くには向いていない職業と言ってよい。
それはつまり、典型的な男社会ということだ。
冒険者のパーティーに女性が入るのは縁起が悪い、という者までいる。
もっと性質の悪い連中であれば、冒険中に襲ってくる連中がいる、と聞くこともある。
そのあたりを跳ねていくと、なかなか適当な仲間は見つからない。
「ケンジがいたときは、ほんと楽だったわー・・・」
元のパーティーにケンジがいたときは、パーティーの連中も女性を蔑んだりする性的な冗談を控えていた。
女性を貶めるその手の発言を、ケンジはせくはらとか何とか言って、ひどく嫌っていたからだ。
そんな事情もあって、サラのような女性冒険者にとって非常にありがたい環境だったパーティーも、ケンジの解雇ですっかり事情が変わってしまった。
サラが元のパーティーを辞めた決定的な問題は金銭にルーズなメンバーへの怒りだったが、その種の環境的なものも大きかったのかもしれない。
「辞めて娼婦にでもなるのか?とか!ほんっと、頭くるわ!」
ほとんど空に近い杯を卓に叩きつける様子を、宿の主人が心配そうに見ている。
杯が壊されると、安宿の経営に響くし、酔った冒険者に弁償させるのは一苦労だ。
要するに、サラは元のパーティーを勢いで辞めた後、ケンジの仕事を手伝いつつも冒険者を続けようと思っていたのだが、元のパーティに嫌がらせをされ、さらに別のパーティーに加わろうとすると女だということがネックになって断られることが続き、荒れているのだ。
女が1人で酒を飲んでいると絡む男が表れそうなものだが、この宿の男達は朝から依頼を受けるために出払っていた。冒険者にしては勤勉だ、という言い方もできるが、この宿を定宿にしているような駆け出し連中は貯えもないことが多く、依頼が受けられそうな天気の日は朝から出かけざるを得ないとも言える。
「だいたい、あたしが娼婦になったら・・・」
言いかけて、サラは自分が娼婦の格好をしたところを想像してみる。
ヒラヒラしたスカートで太腿や胸元を露出した扇情的な服を身にまとって、街角に立って道行く男に腕をからませ、声をかける・・・。
「・・・無理ね。弓で撃ったほうが早いわ」
サラは頭を振って、浮かんだ光景を振り払う。
男を引き止めたかったら、弓に矢をつがえて足元ギリギリに撃ちこんでやればいいのだ。
そして驚いて腰を抜かした男の腕をとり、引き立たせて、売春宿へ連れ込む。
自分が相手をするのは面倒だから、あとは中の女の子に引き渡せばいい。
それで客引きは解決だ。
「それって、娼婦って言うのかしら?」
些細な、そして根本的な疑問が頭をよぎるがアルコールで曇った頭は、細かいことを気にしない。
とりあえず、自分は娼婦としてもやっていけそうだ、と結論すると宿の主人に向かい、麦酒をもう1杯注文するのだった。
明日は18:00と22:00に更新します




