第429話 判決
ニコロ司祭は己の思索を打ち切ると、こちらを見て確かめるように話しかけてきた。
「さて。ケンジよ。お前には、村を今より豊かにする目星がついている。そう理解して良いのだな?」
「はい、その通りです」
村を豊かにする確信はある。
そうでなければ、そもそも代官を引き受けない。
「そのためには教会の支援が必要、ということだな」
「はい。教会からの資金的、技術的、人材的支援が必要です。支援が大きければ大きいほど、村の復興と発展を早期に軌道に載せることができるでしょう」
そして、その利益は資金を融資した教会にも返ってくるはず、と言外に匂わせる。
大きく投資すれば、大きく返ってくる。
ほら、そこにたった今、召し上げたばかりの財産があるじゃないか。
ニコロ司祭は裁判官をしていた聖職者に向き直り
「こんなところで、いかがでしょうかな?」と話しかけた。
裁判官の聖職者は、その顔に苦笑の形に歪めると
「なるほど。そなたが最近、新しい靴を履いたと話にあったが、そういうことか」
と、こちらを横目で見ながら言った。
「まだまだ、と言いたいところですがな」
「なに、人はワインと同じ。じっくりと待つことだ」
などと勝手なことを話している。
それよりも、早くここから解放して欲しい。
先程までは魔女裁判の様相を呈していた小法廷は、今や毒蛇と狸の巣窟と化した趣がある。
ようやく2人の間で結論が出たのか、裁判官の聖職者は、厳かな口調で語りかけてきた。
「教会としては、プルパンの失政により被害を被った村民達に憐憫の情を禁じ得ない」
失政ときたか。まあ、そういうことになるのだろう。
「そのため、前代官のプルパンの財産を用いて村民の生活の支援と向上に当てることとする。その財産の運用は次期代官の計画に従い、効率的、発展的に使用されることが望ましい。ただし、代官の突然の退任による混乱をさけるため、領地は一時的に教会の直轄地とし、村民への周知と一時的な一連の措置を専門の裁判士を派遣して行うものとする。新しい代官の赴任は、裁判士と相談し、早期の派遣に臨むものとする。以上を以って、今回の係争における私設小法廷を閉廷する」
結論を聞いて、ほっと溜息が漏れる。
大体は、こちらの望んだ通りの結果になった。
プルパンの財産は没収され、村の権力構造は一掃され、資金の用途はこちらに任される。
一時的に後任に入る裁判士が汚職を働かないかが唯一の心配事項だが、さすがに汚職で罷免した後任へのつなぎに汚職を働くような人間を送り込んだりはしないだろう。
有能な人間はバレにくく、合法的、合理的に役得を得るものだ。
こうして、クラウディオが領地の調査結果を持ち込んだことから始まった一連の騒動は、ようやくに終わりを迎えたのだった。
明日は18:00に更新します⇒すみません、22:00投稿になりそうです。
少し閑話を入れようと思います。次のどちらにするか悩んでいます。
①ある団員から見た剣牙の兵団遠征記:オーガ捕獲作戦
②サラちゃんのこんさる日記:娼婦の相談
9月5日15:00に決めますので、活動報告にご意見をいただけると嬉しいです。
 




