第406話 会社工場見学
それから3日間、会社の職人、手伝いに来ている母子、ゴルゴゴなどにも話を聞いてみた。
いい機会だったので、外部の職人をどうするか、だけでなく賃金は充分か、仕事で困っていることはないか、道具に不満はないか、勤務形態や時間に不満はないか、建物に不満はないか、仕事で改善すべきだと思っていることはないか、など顔を合わせて聞いてみると「そういえば・・・」と様々な意見が出てきた。
以前、改善会議のようなことをやろうとして挫折してから、いろいろな訴えは朝食を全員で取る際に意見を聞く、という形で話を聞いてみたのだが、それはあくまでつもりでしかなかったらしい。
やはり定期的に1対1で話を聞く機会を意図的に設けるべきだろう。
忙しさにかまけて現場のわからない経営者になりたくはない。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
3日後、3人の職人が再び訪ねてきた。
「それで、俺達を雇ってもらえるんでしょうか」
開口一番、1人の職人が言う。
「まずは、工房を見てもらおう。そして話をしてからだな」
先導して工房の中を案内する。
「大きい・・・。それに広い・・・」
職人達がまず驚いたのは、工房の広さと大きさだった。
俺はすっかり麻痺していたが、普通の工房は数人の職人が作業する程度の広さが普通であって、数十人が並んで作業できる工房の大きさは、職人達の度肝を抜いたらしい。
そうして案内している間に朝食を終えた職人達が担当箇所に就いて作業を始める。
「あれは、何をしているので・・・?」
案内されている職人達が気にしたのは、職人の間に置かれる中間在庫の籠だ。
先日までの作業で、途中になっているものや必要な部材を、小さな子どもが走り回って設置している。
「あれは、靴の部品だな。職人は靴の一部を作るだけに専念できるよう手伝いの子供たちが最初の準備を手伝っている。道具の確認は職人の仕事だが、準備までは同じように手伝いに来ている女性や子供の仕事だ」
枢機卿の靴を納品した時に徹底的な分業した結果、職人は本当に作業だけをするようになっている。
その光景も、職人達には衝撃だったようだ。
「自分は、親方には道具は誰にも触らせるな、って仕込まれたもんですが・・・」
「道具は必要に応じて、どんどん改良してるからな。あの治具は、もう5代目だ」
靴の製造には様々な道具が必要だ。一人前の靴職人は様々な道具が使いこなせるよう、技術を磨く。
だが、会社の工房では道具の方を改良する。
1つの工程で使う道具について、ゴルゴゴや担当する職人の意見を聞いて、その場で制作する。
基本的には、職人独自の道具というものを認めない。道具は会社のものだからだ。
「それに、えらい速さで出来るんですね」
そして、職人達が驚いたのは靴の出来上がる速さだ。
何十人もの人間が協同、分業して作業し、複雑な工程を経て、製品がどんどん出来上がっていく。
この工房は、おそらくこの世界始まって以来の、工場なのだ。
一通りの案内が終わる頃には、自分達の技術の参考にしようと意気揚々と乗り込んできた職人達は、その顔色をすっかりなくしていた。
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