第395話 管理のプレゼン
「調査関連の作業が多いように見えるが、どのように行うつもりだ?」
「各作業には担当者をつけています。分担して実施するつもりですので、1人1人の負担は軽いはずです」
「一部の作業者に負担が偏る可能性はないか?」
「作業日数を足して全員の作業数に偏りがないことを確かめています」
なるほど。この返答だけで、クラウディオ達、新人官吏がかなりの部分、この方式を使いこなしていることが伺える。
「では、作業項目としての偏りはないだろう。だが、時系列の偏りがないことは確認しているか?」
「と、いいますと?」
「作業にあたる個人の仕事を全体で計算しているようだが、特定の日を切り取った時に、仕事が1人に集中しすぎていることはないか?例えば、調査計画7日目の作業は、ロドルフが3人いないと行えないように見える。板切れに書かれた仕事を日数で揃えて縦に見てみろ。そうすれば、あるタイミングで特定の人間に仕事が集中しすぎていないか、確認できるはずだ」
「日数を揃えて縦に見る・・・。なるほど、そういう使い方もできるのですね。いや、本当に奥が深い。その点は考慮が不足していたようです」
「もう少し踏み込んで言うならば、領地開発の実施段階でも人足の計算に役立つ考え方のはずだ。村内の労働力は一定なのだから、毎日の作業が上限を超えないよう、平行して実施する仕事を縦に足し合わせる必要がある」
「ご指摘、おっしゃる通りです。開発計画の際に、毎日の上限労働力を計算に入れるよう検算致します」
俺が指摘した事項についてクラウディオが答える間にも、パペリーノがメモをしている。
「他に、何か指摘事項はありませんか?」
「いや、特にない。この短時間でよく考えられた計画だと思う」
俺の答えに、新人官吏達は嬉しそうな顔になる。
「それでは、続けさせていただいて宜しいでしょうか?」
「ああ、次は管理についてだったな」
「それについては、私の方から説明させていただきます」
と、パペリーノが進み出る。やはり人前で説明したり、議論に答えたりする役割は聖職者の彼らが向いているようだ。
パペリーノは、せっかちなクラウディオとは異なり、ゆっくりと周辺事情から説明を始めた。
「これから説明させていただくのは、領地の管理方式に関する計画です。正直なところ、これまでの領地開発には求められなかった項目でしたので、我々としても戸惑った部分です。
管理の具体的な計画項目としては、管理項目の検討、農地管理評価、連絡手段構築、運搬手段構築、領地管理報告書作成体制構築、投資報告書作成となります。
要するに、何を管理するか議論して決定し、農地については年間を通じて収穫予測を出せるようにする、さらに連絡と運搬手段については基盤から構築する、報告書は領地管理の状況と、出資者に対する特別な報告書を作成するものと考えております」
「管理項目が多すぎて報告者の負担になる、ということはないか」
自分から管理項目を増やすことを提案しておいて、負担も何もないのだが。
だが、多すぎる管理は実務として回らないのも事実だ。
「絞り込みには、正直苦労しております。別の機会をいただき、改めて議論をいただけると助かります」
できないことを認め、助言を求められるパペリーノの態度に好感を覚える。
無能な人間ほど、仕事のための仕事を増やし、管理のための管理項目を増やしたがる。
そうならないために、管理は必要最低限である必要がある。
何を管理し、何を管理しないのか。そのあたりについては実務的なセンスが求められるところではあるし、管理項目相互の論理構造にまで踏み込む必要もある。
「そうだな。後で議論しよう、続けてくれ」
新人官吏達の計画と発表は、なかなかの完成度を見せている。
ふと、この光景をニコロ司祭が見ていたらどう思うか、と好奇心がわいた。
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