第39話 冒険者のあがりかた
薄暮の中、宿に戻るとサラが待っていた。
俺の顔を見ると席を跳ねるように立ち上がり、近づいてきた。
「ね、どうだったの?なんの話だった?」
「なんだ、待ってたのか。」
「待ってたとは失礼ね!あんたが出世したなら、
お祝いしてあげようと思って待ってたのに!」
「ああ。出世な。それは、まだ考え中だ。」
「考え中?ってことは誘われたのに、断ってるの?なんで!?」
サラとしては、鎌をかけたつもりだったらしい。
その上、剣牙の兵団のような一流クランからの誘いに待ったをかける
という意味がわからないようだ。
「なんで?待遇が悪かったの?」
「いや、たぶん副長と同じぐらいの待遇で誘われた。」
「すごいじゃん!!」
「剣の腕を見込まれたわけじゃない。
まあ、後ろで書類を書く仕事だろうよ。」
「はー・・・いいなあ、学があるって。なんで断るの?」
「断ったわけじゃない。決めかねてるだけだ。」
サラが、俺を羨ましがるのも無理はない。
サラのような、普通の冒険者人生の上りは、3通りだ。
1つ目の道。運よく体力が衰えるまで生き延びて、小金を持っていたら
小さな商売を始めたり、農地や家畜を買って故郷で農場を始める。
2つ目の道。怪我をしたり、病気になって動けなくなったら貧窮院やスラムで
教会の温情に従って這いずって生きる。
最後、3つ目の道。これが一番多いのだが、依頼の最中に死ぬ。
小さな商売を始めたとしても、騙されて数年で身代を潰すことも多い。
この道数十年のキャリアを持つ商人と、昨日今日始めた素人では勝負にならない。
勢い、冒険者あがりの商人は、街の商人が引き受けたがらない
危険な流通ルートで働くことになる。
街間の輸送を引き受ける隊商の商人は、大体が冒険者あがりだ。
そうして、隊商で雇用される人員も、多くは冒険者あがりだ。
冒険者にとって、引退後に大手の隊商に雇用されるというのは、
十分に勝ち組な道と言える。
そこまで考えて、隊商で働く冒険者上がりにも、靴は需要がありそうだな。
と感じる。奴らも、冒険者と同じくらい歩く商売だ。
ふと、目を上げるとサラがこちらをジッと睨んでいる。
そうして、
「じゃあ、今の商売はどうするの?」と心配そうに尋ねてきた。




