第381話 議論の終わり
隠し畑の撲滅に懐疑的な面々に、成算と意図について説明する。
「一応、根拠はある。貧しい農民だって食うのに必死だから、柵の外であってもなるべく安全で地味豊かな土地を選んで隠し畑を作っているはずだ」
「それは・・・・そうね」
と、サラが同意する。
「いわば、その土地をよく知っている農民による予備調査が済んでいる状態なわけだ。その隠し畑の収穫量を見ることで、そのあたりの豊かさや安全性が測れる。つまり、領地のどこに資源を集中して開拓すべきか、計画の参考とすることができる、ということだ」
「でも、農家の人達は、簡単に教えてくれないと思うわ。だって、悪いことだもの。ただで取り上げられるんだったら、なおさら秘密にすると思う」
「そこは、もちろん隠し畑を失う農民には、調査費用として謝礼を払う。それに、拓いた後の農地には一定の権利を認める。農民の方から隠し畑について積極的に情報を寄せてくる動機づけを制度として整備する」
そこで、貴族出身のロドルフから異議が出る。
「しかし、その報奨金や権利目当てに、農民達は無秩序に開拓を始めるかもしれませんよ。農民というのは、あれで意外と強かなところがあるものです」
「そうだな。だから、その種の報奨は最初の1回だけを有効とする必要がある。冒険者を雇って村の周囲を探索し、実際の隠し畑を抑えた上で布告する必要があるだろう。それに、急ごしらえの畑なら、見ればわかるだろうしな」
調査活動に冒険者を活用する。これは、前回の農村訪問から考えていたことだ。
それに対し、サラも賛同する。
「そうね。土とか、周りの木とかを見れば、最近拓いた畑かどうかは、すぐにわかると思うわ。それに、いくら報奨金が貰えると言っても、やっぱり村の人にとって柵の外って、すごく危険で怖いものなのよ。余程暮らしに困っていないと、普通はやらないと思うわ」
「なるほど・・・」
およその話を全員が理解したのを見て、長かった議論を結論へと向かわせることにする。
「さて、これで予備調査に基づく議論と、領地管理と開拓の方針については共有できたわけだ」
呼びかけに対し、全員が「はい」と頷いた。
「では、これから10日間の時間を与える。今後の領地開発の計画を立ててもらいたい」
「ええっ!これまでの議論は何だったんですか?」
俺が計画立案を命じると、シオンが悲鳴をあげた。残りの官吏たちにも、同様の表情が見える。
だが、俺は涼しい顔で続ける。
「ただの、方針確認じゃないか。代官である自分が何を考えていて、どうやって領地を治めるつもりなのか。今回の領地開拓の成果は、どういった方向に活用されるのか。懸念していることは何か。その解決をどのように図るつもりなのか。充分に共有できただろう?」
「ええ、それはできましたが・・・」
「そうだろう。だから、今後は領地を管理し、開拓するための実務的な計画を立てるんだ。2チームは、今のままで。ただし、チーム間の話し合いは許可する」
親切心で付け加えたつもりだが、今後の思考と作業の膨大さを思ってか、新人官吏達は天を仰いでいた。
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