第362話 仮説は何か
準備が出来た、とのことなので、もう1つのチームが発表する段になった。
挨拶と説明は、兵団のリュックが行うようだ。
「今回の報告は、調査予備として行った活動に関するものです。
当初の方針では、集めた情報の整理や考察は代官様が行うものとして、私達は人に会ったり足で稼ぐことを重視して情報の収集を行いました。
ただ、先ほどの別チームの発表をうけて方針を修正し、もう少し整理した形で情報を届けられるよう時間を頂いた次第です。
さて、まず該当の領地についてですが、そちらを訪問したことのある冒険者から話を聞いてきました。冒険者ギルドを通さずに、別依頼のついでに依頼を請けていたようですね。サラさんのコネで聞きましたので、詳細については追求しないでいただけるとありがたいです。
その冒険者の言うには、その領地では数回、ゴブリンの襲撃をうけたことがあるそうです。どうもゴブリンの巣が隣の領地にあるらしく、踏み込んで潰せていないようですね。詳しくはわかりませんでしたが、貴族領であるらしくて、教会領の干渉を受けたくない、という姿勢のようです。
あとは、その村出身の冒険者もいました。いました、というのは残念ながら引退した、ということで所在不明なのです。ここ5年ほどの記録をあたりましたが、7名の若い男が冒険者として登録した記録がありました。ただ、見落としはあるかもしれません。
一応、以前パーティーを組んでいたという冒険者を見つけ、話を聞くことができました。
やはり不作のため村から出て冒険者になった、という話でした。税金が特別に重いですとか、怪物の脅威がという話は聞かなかったそうです。ただ、ゴブリン退治を一緒にした時には、慣れている、といったようなことを言っていたとのことです。
それと、これは団長から聞いてきたことなのですが、ニコロ司祭の領地で依頼を受けたことはないそうです。ニコロ司祭は中央教会での勤務に忙しく、領地経営に熱心なタイプではなかったようです。以前の代官についても面識はなかったそうですが、特に可もなく不可もなく、といった感じで特段の評判のある人物ではなかったそうです。
私達の調査結果は、以上になります」
なるほど。
クラウディオのチームが、自分達の得意な法律や書類の追跡を中心に調査してきたのに対し、サラのチームは冒険者ギルドへの強いコネと足で稼いで当事者の証言を集めてきたわけか。
「何か質問は?」
そう言って、先に発表を終えたチームに振ると、クラウディオが手を上げた。
なかなかタフでよろしい。
「あなた達が立てた仮説について教えて欲しい。私達は、代官様が領地に行ってすぐに政治が行えるよう根拠となる法律や必要な文書を探すことに重点を置いて調査をした。結果としては不十分だが、そう考えていた。
なぜなら、法律や書類は嘘をつかないからだ。
だが、あなた達は冒険者という人達の証言を集めることに主眼を置いている。人の意見は変わるものだし、冒険者という人達の言うことは主観が多いし、どれだけ集めても政治の資料として信頼するのは難しいのではないか」
そう言うだけ言って、腰を下ろした。
冒険者の証言がいったい行政の何に役立つのか。そういった階層の人に見えている印象論だけでは、全体を見て行うべき政治の世界では、実際に役立たないのではないか。
クラウディオの言い方は差別のように聞こえるが、社会の上層であることを自負し、法律や記録を武器とする文官教育も受けた知的階級の聖職者としては、それほど間違ったことは言っていない。
さて、彼らはどう答えるものかな。
サラたちのチームを見ると、全員の顔が強張り、しかし何かを言いたそうにしている。
興味深い回答が聞けそうだ。
明日も12:00と18:00に更新します




