第354話 選抜者達
1週間後、6名の代官領地準備チームが発足することになった。
内訳は、教会、剣牙の兵団、会社から2名ずつ選出された、総計6名である。
一応、全員が志願したことになっている。
その6名を前に、俺は代官の初仕事として訓示と説明をすることになった。
と、偉そうなことを言っても、訓示をする場所は会社の工房の一角である。
拡張工事中の工房にはいくらか空間の余裕があるので、椅子と机を運びこんで臨時の教室とした。
何とも質素で埃っぽいスタートではある。
参加者の顔ぶれを名簿で確認する。
教会からは、若手聖職者のクラウディオとパペリーノ。
剣牙の兵団からは、商家出身者のリュックと貴族出身のロドルフ。
会社からは、元冒険者のサラと、職人のシモン。
サラを含め全員が基礎的な文字の読みと数字は理解できる、という条件で選出された者たちだ。
書く方は単語だけなら、というレベルの者たちだが、それで構わないとした。
全員が粗末な椅子に座り、俺の言葉を静かに待っている。
社会的地位の裏付けがあると、以前のように、最初にガツンとやる必要がないのが楽でいい。
滑舌に気をつけて、ゆっくりと話しだす。
「皆さん、今日はよく来てくださいました。皆さんは、これから数年間、私の下で働いてもらうことになります。
私は代官としては新任に過ぎませんが、いくつか野心的なことを考えています。
ですが、その実現のためには皆さんの手助けが必要ですし、考え方を理解してもらうための訓練に十分に時間を取るつもりです。
勉強ではなく、訓練ですから、皆さんにはイロイロと手を動かし、足を運び、体で学んでいただくことが多くなるかと思います。
そして、何よりも新しいことを自分の頭で考える経験を積んで欲しいと考えています。
学んでもらうために、結論や理由を伏せて、最初はいろいろと戸惑うことや理不尽なことを要求するかもしれません。
けれども、そこは乗り越えてください。そのための手助けはします。
これから、一緒に頑張りましょう」
俺が丁寧に挨拶すると、パチパチとまばらな拍手がされる。
場所が場所だけに、盛り上がらないのは仕方ない。こんなものだろう。
気分を切り替えて、さっさと実務を進めてしまう。
「と、いうわけで。まずはチームを作ります。3人1組です。教会、兵団、会社から1人ずつですね」
そう言って3人1組で2つのチームを作らせる。
「この3人が、学ぶためのグループです。以降、私の講義では3人で協力して進めてください」
突然にチーム分けされて、聖職者の2人は明らかに戸惑っていた。
一方で、チーム行動の多い剣牙の兵団から来た2人と、俺から無茶振りされることの多い会社の2人は、平然としているのが面白い。
「あの、私達は同じチームになってはいけないんでしょうか」
と、教会から派遣されたクラウディオが、手を上げて意見してきたが
「ダメです」と却下する。
「理由をお伺いしても?」
「はい。あなた達は、聖職者以外の人間と対等に接する機会を増やす必要がある、と考えるからです」
と答えると、クラウディオは力なく手を下ろした。
以前、若手聖職者達に講義をした時は、上の意向には従うが下の意見には耳を貸さない、という教会出身者達の学習された組織行動に非常に苦労させられた。
彼らには、まず「対等に議論する」という概念と習慣を身につけてもらわねばならない。
本日は22:00にも更新します




