第32話 道の先には
現代世界では偉いさんへの営業は散々やったんだ。
それに、剣牙の兵団をどうするか、確固としたイメージはある。
俺は口を開いた。
「結論から言うと、剣牙の兵団はもっと強くなるべきだ」
と言うと、ジルボアもスイベリーも意表を突かれた顔をした。
わかるよ、この不利な状況で如何に低コストで戦闘力を保つように
するのか、そういうコストカット的な話をされると思ったんだろう?
新人冒険者達には、それを指導してきたわけだからな。
スイベリーも、そのあたりの評判を聞いて俺に接触してきたのだろう。
だが、剣牙の兵団のようなトップクランが、そんな方針をとったらダメだ。
これまで育成してきた戦闘力、という掛け替えのない価値が死んでしまう。
「あんた達は、この街近郊で活躍するには、強くなり過ぎた。
だから、もっと広い地域で活躍できるようになるべきだ。
別の地域なら、あんた達の望む広い土地、強く打倒すべき敵、
戦うべき戦場があるだろう。
そのためには、もっと強くなる必要がある」
この世界では怪物の脅威があるため、街は、
そのまま都市国家としての性格を強く持っている。
冒険者も大抵は都市に所属して生きているものだ。
別の地域に行くとは、元の世界では別の国家に所属しろ、
という意見に等しい。
そうかもしれないが、そんなことは可能なのか?という意見でもある。
「それができれば苦労はしない。1人の冒険者なら別の街でも
仕事ができるかもしれんが、
俺達の規模になれば、そう簡単に、拠点を移して仕事はできん。
それに、俺達を支援している貴族達との付き合いもある。
それを放り捨てていくわけにはいかんのだ」
スイベリーが顔を顰めて、それは机上の空論だという。
俺も机上の空論は嫌いだ。だから言う。
「違う。剣牙の兵団が移動するんじゃない。別の街に来てもらうのさ」




