第288話 回答のもたせ方
冊子のイメージが固まったところで、あとはどうやって冒険者ギルドまで情報を持ち帰るかを考える。
なぜ、このように一歩一歩地道に考えていくのかと言えば、仕事全体のことを考えれば、そうせざるを得ないからだ。
仕事を設計する場合は、仕事の始まりである末端から、仕事が終わって金銭を受け取る最後まで、全体のプロセスを順番に追っかけて行く必要がある。
仕事というのは情報と金銭の流れなので、どこかで途絶えたり非効率な部分があると、全体の流れがおかしくなってしまう。その非効率な部分をボトルネックという。
業務改善とは、ボトルネックの解消である、と言い換えても良い。
今、俺が教会の冊子配布を切欠として取り組もうとしている業務改善の課題は、怪物襲撃現場の情報を素早く正確に適切な冒険者へ伝達し、派遣してもらい、適切な報酬を払う仕事を設計することだ。
正確な情報が素早く伝達されることで、冒険者による怪物駆除の効率は、劇的に向上するだろう。
これが製造現場の仕事であれば、冒険者派遣までの平均日数などの数字を押さえておきたいところだが、注目されてこなかった事実に関する統計的数字などないのがネックだ。
もともと、この世界では税収以外の数字を集める習慣は薄いようなので、それは仕方ない。
冒険者ギルドからの報告書では、その種の管理会計的な考え方を盛り込んで報告しているので、いずれ政策に反映されるといいのだが。
「教会から冒険者ギルドまで、どうやって連絡をつけたものかな・・・」
と、誰にともなく呟く。
考え事をしていると、つい独り言が増える。
若い村人を走らせる、などという現在の方法は、できれば止めさせたい。
そもそも若い村人は、村の働き手として貴重な人材であるし、そもそも怪物が跳梁跋扈する野外を行き来する訓練を受けてもいなければ、経験もない人間が走ったところで犬死する可能性が高い。
それに、聞き取った情報の伝達手段も変える必要がある。
村の聖職者が冊子を元に正確な情報をヒアリングできたとしても、使いにでた村人の伝言ゲームになって情報が劣化してしまっては意味が無い。何らかの物理的媒介に記録したいところだ。
まず、村人を走らせる是非については、一旦、考えるのをやめる。
村によって状況も違うし、村の間の連絡手段を整備することなどは、俺にできることではない。
できないことは考えない。あとで誰かの知恵や権力を借りる。
それが、仕事を前に進めるコツだ。
それで、冊子を元にしたヒアリング内容を、何にどうやって記録するか。
羊皮紙は高いので、咄嗟の場合は、村によっては持っていないことも考えられる。
羊皮紙を調達して、それから手紙を書く、などという手間と時間を削減したい。
「サラ、駆け出し冒険者連中に配ってたツアーの予約票を憶えてるか?」
「あの、棒に記録してたやつ?」
「そう。あれを弄れば、出来ないかな」
冊子の設問を洗練させれば、全ての回答がイエス・ノー、もしくは数字になるよう設計することができるはずだ。
そういったデジタルな情報であれば、細い棒でも記録するのに場所が足りないということはない。
記録方法については、記入例を冊子に載せればいいし、どこの村からの依頼か、という情報は、各村に配布する冊子に管理番号を当てておけば良い。
王国中の各村に管理番号をあてるとか、完全に行政の行うべき領域に足を突っ込んでいる気がするが、今更気にしても仕方ないので、そこは気にしないことした。
ご心配をおかけしました。体調も戻りましたので、平常更新に戻ります。
本日は22:00にも更新します




