第283話 全員が得する仕組み
「なんだか、ずいぶん大げさな話になっちゃったね」
と、サラが言う。
「そうだな」
そう答えながら、俺も違和感を感じていた。
別にいまのやり方が理屈の上で間違っているわけではないのだが、何となくスマートなアプローチでない自覚はある。
どこか方法が間違っているんだろうか?
この種の直感が働くときは、少し立ち止まって考えた方がいい。
もっと効率的なやり方がある気がするのだ。
一度、原点に戻って考えてみる。
そもそも、物事を動かすときには、PUSH型のアプローチとPULL型のアプローチがある。
PUSH型のアプローチとは、人を動かすアプローチであり、PULL型のアプローチは人に動いてもらうアプローチである。
スライムの核の買取価格が上昇し、結果的に駆け出し冒険者の仕事が増えた方法は、PULL型のアプローチだ。
PULL型のアプローチの特徴は、少ない労力で大きな効果を得ることができる点にある。
それに対して、今、俺が計画している教会に冒険者向けの冊子を置こうという試みはPUSH型のアプローチである。
教会の組織を利用して、上から仕組みを一挙に入れてしまおう、というアプローチだ。
PUSH型のアプローチの特徴は、物事を一挙に進めるためには都合が良いが、組織に大きなストレスがかかる点がデメリットでもある。
「ちょっと、教会の力を当てにし過ぎているかもしれないな」
と、思わず口にすると、サラも同意してきた。
「あたしも、それはちょっと思った」
サラが言うくらいだから、俺の思考は教会の権力をあてにしたPUSH型に偏り過ぎているのかもしれない。
はっきりと言葉にするのは難しいが、現場の聖職者や冒険者が、思わず協力したくなるPULL型の仕組みを考えたいところだ。
「まず、スライムの核の買い取り価格はもう少し上げてもいいな」
「そうね」
もともと、スライム核の買い取り価格など、靴の原価に占める割合は本当に少ない。
必要数量は今後もますます増えるだろうし、それで駆け出し冒険者の暮らしが良くなるのであれば、安いものだ。
それに、価格が上がればスライム駆除の依頼を受ける冒険者も増えるだろうし、街の人達の冒険者に対する印象も良くなるだろう。
そうした土壌ができあがっていれば、教会が冒険者と街の人の仲立ちをする、という仕組みも上手く働くことだろう。
「これで街の教会の方はいいとして。農村の教会でも、似たような仕組みを入れたいな」
「似たような仕組みって?」
サラが聞いてきたので、俺は持論を述べる。
「農村の教会の司祭様が喜んで冊子を置いてくれて、冒険者も、俺たちも得する仕組み」
「司祭様と冒険者はいいとして、あたし達も得しないと駄目なの?」
とサラが聞いてくる。何となく、ドサクサに紛れて私服を肥やしているように聞こえたのだろう。
だが、俺にも言い分がある。
「俺達が得しないってことは、商売として欠陥があるってことだ。誰かが損する仕組みは、長続きしない」
「そういうものなの?」
「そういうものだな」
「ふーん・・・」
サラは、少し納得がいかないようだ。
明日は12:00と18:00に更新します




