第281話 村人の依頼の現実
バスケス司祭から生々しい現場の話を聞くと、俺のアイディアが誤っていたのか、と不安になったが、この程度で諦めるわけにもいかない。
とりあえず、順を追って質問し、改めて事実確認をしていく。
「例えば、ゴブリンや魔狼などに村が襲われた際に、冒険者に駆除の依頼をすることはありますよね」
そもそも冒険者に依頼が発生しているのかどうか。事実が錯綜して混乱してきた時は、原点に立ち返ったシンプルな質問をするのが良い。
「それは、ありますな。村の柵で迎え撃つことは村人にもできますが、森の中に分け入って怪物の住処や巣を根絶やしにすることは冒険者でなければ難しいですからな。そういった場合には、冒険者に依頼せざるを得ませんな」
バスケス司祭から、村で冒険者に依頼をしていることは確認できた。
次は、その依頼方法を確認する。
「その際は、どういった形で依頼をするのですか?」
「そうですな・・・」
バスケス司祭はしばらく考えてから口を開いた。
「まず、村中から貨幣を集めますな。村では災害や祭りなどに備えて一定の蓄えをしておくものですから、それを切り崩すことになります。その貨幣を、村の中で実直で足の速い若者に託しますな。そうして、冒険者ギルドがあるという、手近な都市まで走らせるわけです」
依頼は現金払いでしか受けていないので、支払い手段として貨幣を持たせ、連絡手段は村人、ということも確認できた。
「それで?」
「それで、その若者が帰ってくるまで、何日も村は守りを固めるわけですな。怪物も夜に現れることがあっても、昼日中に村を襲ってくるわけではありませんからな。畑仕事で村の外の柵に出て、一人でいるのは危ないので畑仕事の時間は減りますが、まあ耐えられないほどではありません」
事態の解決は冒険者に任せるとしても、それまで村は怪物の脅威に晒され続ける。とは言え、昼日中から怪物が襲ってくるのは暴走現象のときぐらいなので、持久戦の構えをとるわけだ。
だが、もう一点、事実を確認する必要がある。
依頼の成功率だ。
「その・・・聞きにくいことですが、使いに出された若者は無事に冒険者を呼んでくることができるのでしょうか」
俺の質問に対し、バスケス司祭は顔をしかめて答えた。
「そこは正直、難しいところですな。そもそも怪物を怖がって使いにでることを拒否する者、街まで辿り着いたものの持っている金銭で身を持ち崩してしまう者、冒険者ギルドに依頼はできても、呼んできた冒険者が箸にも棒にもかからない役立たずな者であることも多かったですな」
「なるほど」
成功率は、あまり高くないようだ。
「身を持ち崩してしまう、というのもわからんものではないのです。村の暮らしでは硬貨が必要なことなど、まったくありませんからな。持たされる金が大きいですから、カッと頭に血が上ってしまうのでしょう。街で金を使い切り、そうして青くなって村に戻ってくる。そういう若者も何人もいました」
買い物や金銭感覚というのは教育や経験の賜である。
小さな村の中しか知らない村人が大金を持って都会に来たら、ある種の人間にとっては鴨にしか見えないことだろう。
「それで、冒険者への依頼が失敗してしまった場合は、どうするのですか」
あとは、失敗した場合の対応について聞く。いわゆる代替案はあるものなのか。
「最後の手段としては、その土地を治める貴族に縋ることになります。もっとも、代官も置かれていない小さな村ですから、王都への陳情となりますと冒険者への依頼以上に時間も金銭もかかることになりますな。ですから、徴税役人を通じて連絡をすることが多いようです。それで連絡を受けた領主を通じて、最寄りの兵士を抱えた貴族に兵力の派遣を依頼することになります。ですが、そのための費用は大変高額につくので、できれば避けたい、というのが村の者達の総意ですな」
バスケス司祭の言い方に不安を覚えたので、俺は躊躇いつつも聞かずにはいられなかった。
「高額といいますと、どれくらいの負担なのでしょうか」
「村から身売りするものが20人に1人は、でる程の金額です。それでも、飢え死にするよりはマシなのです」
というのが、バスケス司祭の答だった。
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