第274話 冒険者の教会
時間を節約するため、とりあえず街中だけの伝手を辿って仕事の合間に調査することにした。
ミケリーノ助祭以外でこの街で探す、となると聖職者の地縁も限られる。
まずは冒険者と接点の多い、冒険者の共同墓地を管理している聖職者に会いに行くことにする。
ニコロ司祭傘下の若手の中では、日頃から冒険者と接しているので現場感があるのではないか、と期待してのことだ。
「あたし、あんまり、その人の印象ないなあ」
と歩きながらサラが言う。
「別に、無理してついて来なくて良かったんだぞ」
そう言ったのだが
「あの教会からの帰りに襲われたの忘れたの!?1人で行動なんて絶対ダメよ!それに、あたしがいないとケンジが何を引き受けてくるかわからないでしょ?」
とダメ出しをされた。
実際、忙しいことは忙しいし、危険でもある。
まあ、用事だけ済ませたらすぐに発つつもりなので、前回のように初めての店で酒盃をあけるような油断はしないつもりであるし、護衛もキリクともう1名の2名体制だ。
であるから、食い詰めた冒険者くずれ程度なら10人でも20人でも何てことないし、万が一荒事になったとしても、俺やサラの出番は全く無いだろう。
だが、それはそれとして
「頼りにしてるよ」
そう言うと
「当たり前じゃない!」
と途端に機嫌を良くしてそっくり返って胸を張る様子が可愛らしい。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
3等街区にある冒険者が共同で祀られている教会は、冒険者の負傷について魔術治療も行っている。
腕や足の欠損などは流石に治療できないようだが、筋が傷ついて腕が動かなくなった部位も、魔術治療で動くようになったりもする。そういった一部の治療については、元の世界の水準を上回っている部分もあるようだ。
それだけに費用は高額だが、一流冒険者の稼ぎなら十分に払えるし、教会の依頼を受けると治療費が減額されたりもするらしい。
そのあたりの情報は、教会の依頼を請けることも多い剣牙の兵団を通じて入ってくる。
「いやあ、実際、助かってますよ。剣牙の兵団では、団長のコネで前から治療は受けられましたけど、ボラれたり、魔術が使える担当者がいなかったり、ってことがありましたからね。こっちが骨が折れて血もダラダラ流してんのに、今は担当がいないので後で来てください、と抜かされた日には、ぶん殴ってやろうかと思いましたよ」
と、その当時の様子を、キリクが、腕を振り回しながら力説する。
いかにも殴らなかったようなことを言って拳を震わせているが、きっとぶん殴ったに違いない。
こいつの長く筋肉の盛り上がった腕で、不在の担当者の代わりにぶん殴られた男には、同情を禁じ得ない。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
俺達が教会を訪れると、数名の冒険者が教会の中で治療を受けているところだった。
司祭らしき聖職者が銀色の粉を一掴みして、何か口の中でつぶやくと治療部位が暖かな白と緑の光に包まれる。
それまで血のついた汚い包帯で巻かれていた腕が、傷跡一つない状態で動くようになる。
俺も治療の魔術を見たことは数回しかないが、何度見ても不思議な光景だ。
冒険者達は懐からかなりの金額と思しき貨幣の入った袋を取り出し、聖職者に渡すと感謝をしながら教会から出て行く。
それを見送ると、治療を終えた司祭は俺達に向きなおり、話しかけてきた。
「たしか、ケンジさんでしたね。あの報告書の形式は使わせてもらっていますよ。今日も、治療が必要、というわけではありませんよね」
用件の確認に対して、こちらは依頼する立場なので丁寧に挨拶をする。
「ええ、事前の連絡もなしの訪問をお許し下さい。今日は、いくつか伺いたいことがありまして参ったのです」
司祭は一瞬、怪訝な顔をしたが、ニコロ司祭から何かの話を聞いていたのか、教会の奥の一室へと案内してくれた。
明日は18:00と22:00に更新します




