第236話 捜索の手
とにかく、どこかの貴族に雇われた魔術師が会社を狙っていることは、懸念の段階から事実になった。
こうなったら、守りに徹しているのは危険だ。
こちらも攻撃に出て、街中に入り込んだ魔術師を探し出し、排除する必要がある。
実際に攻撃を受けたので剣牙の兵団も動いてくれるだろうが、それだけでは捜索の手が足りない。
どうしたものか、と悩んでいると
「冒険者ギルドに依頼を出しましょう」
とサラが言った。
確かに、良いアイディアのように思える。
「ケンジが襲われたって言えば、きっと、みんな一生懸命探してくれるわよ!」
とサラが力を込めて続けた。
「そうかもな」
自分で言うのもなんだが、俺は冒険者ギルドでは、職員や駆け出し冒険者には、ちょっとした顔だし、他所の街の者が俺を害そうとした、と聞けば、それに怒ってくれる奴らも、相当数いるはずだ。
賞金をかけることで冒険者達が熱心に探し回ってくれれば、魔術師の奴も昼日中から自由に動き回ることは難しくなるに違いない。
捕まえることはできなくとも、有効な牽制になるだろう。
俺は少しの間考えると、キリクを呼んだ。
「キリク、これから冒険者ギルドに行って依頼を出してきてほしい。依頼は俺を襲った魔術師の捕縛、ないし殺害だ。賞金は大銀貨5枚を出そう。期間は枢機卿の靴のお披露目までだ。お前も魔術にかけられる恐れがあるから、2人組で行くんだ。ここまではいいか?」
キリクは頷いた後、少し躊躇いながら聞いてきた。
「あ、ああ。しかし、いいのか?大銀貨5枚って・・・普通に暮らしてりゃ数年は遊んで暮らせる額だぞ?」
俺はアッサリと答えた。
「命には代えられないさ」
守護の靴の生産と販売は順調だし、開拓者の靴を枢機卿が履いてお披露目をしてくれれば、その程度の金額は幾らでも取り戻せる。とにかく今を切り抜けないと、将来がないし、金を稼ぐこともできない。
「よし、わかった!まかせておけ!」
とキリクが立ち上がりかけるのを俺は止めた。
「待ってくれ。もう1つ依頼がある。冒険者ギルドの帰りに剣牙の兵団の事務所に寄って、この報告書をジルボアに渡しておいてくれ」
と、俺は羊皮紙に蝋で封をした手紙をキリクに預けた。
「なんだい、こりゃ」
と聞かれたので、中身を答える。
「さっき話し合った警備計画の話だよ。本当は俺が直接出向いて話したかったんだが、今の状態で外に出るのは自殺行為だからな。間違いなく渡してくれよ」
「そんなことなら、おやすいごようさ。じゃあ、ケンジを頼んだぞ」
キリクがサラに言いおいて立ち上がる。
「言われなくても、外には出さないわよ!」
とサラが俺の腕につかまって、ほとんど絡みつきながら言った。
俺が襲撃を受けて以来、手を放したらどこかへ行ってしまうとでも思っているのだろうか。
たしかに、魔術の影響を今も受けていないとは断言できない。
自分のことが自分でわからない、というのが、これほど頼りない思いがするものだとは知らなかった。
なので、俺は大人しく事務所に籠って、冒険者達の奮闘を待つことにした。
それにしても、何もできないというのは手持無沙汰で落ち着かない。
「大丈夫、きっと捕まえられるわよ」
サラが俺の気分を察したのか、声をかけてくれる。
「ああ、そうだな」
そう応えつつも、俺の気分は晴れなかった。
GWも終わりましたので、明日からは18:00と22:00に更新します。




