第229話 危機感の共有
魔術対策については後回しにして、まずはできるところから警備を強化したい。
「事務所に常に剣牙の兵団の団員が2人いる体制を作りたいんだ。枢機卿のお披露目が済むまでで構わない」
と、ジルボアに相談すると追加の人員を派遣してもらえることになった。
「ふむ。そうすると3人、いや4人だな。キリクに加えて、4人出そう」
「すまん、恩にきる」
そこらの冒険者ではない。超一流のクランである剣牙の兵団の団員を4人である。
彼らの受けた訓練内容からすると、人喰巨人が街中に出現したとしても撃退できるだろう。
一般人の暴徒であれば、100人いても彼らを突破できないに違いない。
「気にするな。この街出身で結婚している団員も増えている。他の街の貴族が、この街で我が物顔に振る舞うのを気に食わない奴は、結構いるからな。それに、ビジネスパートナーの利益は守るものだろう?」
というのが、ジルボアの答えだった。
剣牙の兵団がどの程度の規模になっているのか正確にはわからないが、今では40人以上の規模はいるように見える。
最初に出会った頃の、ジルボアに全てを頼り切った30人程度の傭兵団の枠は、とうに超えつつあるのだ。
今の規模であれば、4人を無理なく貸し出すことができる組織の体力があるのかもしれない。
「それに、先月、また2人ほど団員が街娘と結婚してな。少し家を離れて羽を伸ばしたい、という連中もいるのさ。しっかり、いい飯を食わせてやってくれよ」
剣牙の兵団の連中は稼いでいるが、末端の団員となると事務所に詰めている時以外には、夕食や夜食に自宅で温かいものを食べることはできない。
その意味で、革通りという事業で発生する熱源を生かして夜間も温かいシチューや茶が飲める会社の護衛の仕事は、役得があるということなのだろう。
俺は護衛につく団員の歓待をうけ合うと、今夜からの警備派遣の約束を取り付けて、会社事務所に戻った。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
今回の危機については俺1人では対処できないので、全員の協力と助力が必要になるだろう。
まずは会社の全員と危機感を共有しなければならない。
作業中の工員もいたが、全員を集めて話をする。
「みんな、聞いて欲しい。皆が作ってくれている開拓者の靴だが、今度、枢機卿様が身に着けられることになった」
そう告げたのだが、全員が職人で、教会に関する教養はサラと似たり寄ったりだ。
全員が、イマイチ実感のわかない顔で俺を見ている。
つまり、全く理解できていない。
「枢機卿様ってのは、どれくらい偉いか知ってるか」
相手の理解が出来ていないときは、対話する必要がある。
一方的に話し続けても、話されている方が、一度理解を拒んでしまうと、あとは無駄である。
今回は、相手の理解度に会社と自分の生命が物理的にかかっているので、俺も必死に頭を使う。
「じゃあ、休みに教会に行くものは?」
そう聞くと、20人強の職人のうち、10人弱が手をあげた。
「教会というのは、軍隊のように大きな三角形になっている組織なんだ。偉い人が少なくて、偉くない人が多い。ここまではわかるな?」
噛みくだいて説明すると、全員が頷く。
なぜか、以前に説明したはずのサラまでが頷いている。
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