第215話 押し問答
結局、その後はミケリーノ助祭が計画書をまとめる、ということになり会議は解散となった。
「難しいところは解決しましたからね、大丈夫ですよ」
というのだから頼もしい。
まあ、ニコロ司祭傘下の優秀な若手なのだから、その言葉を信じてもいいだろう。
教会内の調整や、貴族との根回しなども先方に任せられる。
有能なビジネスパートナーというのは、ありがたいものだ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
1月後、開拓者向けの靴の1号が、教会に納品された。
教会の印が刻まれたその靴は、教会で買い上げられた後、開拓事業に従事する教会の聖職者達に配布されることになる。
ブランド管理のテストも兼ねていたため先行販売分は30足程度の少数にとどまったが、使用者である聖職者達の反応は良好であった。
いや、むしろ良好に過ぎたと言えるだろう。
「ねえケンジ、また聖職者様が来てるよ」
「またか・・・名前とか聞いてるか?」
「ええとねえ、ベネデッタ・・・司祭様?だったかな」
「わかった。すぐに行く」
教会の印が入った開拓者の靴を教会に卸し始めて1週間ほど経つと、すぐに教会内で靴が配布されなかった聖職者達が、会社の工房の方に直接来るようになった。
何でも、教会の方では在庫が既になくなっているので、製造場所を調べて来るらしい。
「・・・ですから、教会の依頼を受けて作っているものですから、当方で勝手に製造や販売はできないのです。申し訳ないのですが、ニコロ司祭かミケリーノ助祭の管理部門に直接、お尋ねしていただけますよう、お願いします」
「そこを何とか!予算ならありますから!うちの教会としてもぜひ、農村の支援に協力していきたいと思っているのですから」
このやり取りも、今週に入って5回目である。
会社に販売機能はないので、基本的には製造した靴は教会の印管理部門に全品納入することになっている。ブランド管理の都合上、そうならざるを得ないのだ。
教会は開拓向け予算の中から備品として開拓者の靴をまとめて調達し、事業の参加者に配布する。そういう商流として設計してあるのだ。納品数は教会の予算と開拓に従事する聖職者の数から計算し、余裕を持って納品されている。製造ラインも守護の靴の製造数を絞ることで、順調に稼働している。
だから、何も問題はないはずだったのだが・・・。
「お志、大変ご立派なことだと存じます。こちらとしても、全力で製造して教会の方に納入させていただきますので、今しばらくお待ちください」
「あの部門は、何かと融通が利かないのだ!1足で銀貨5枚ではどうか?何なら予算をもう少し増やしてもいい」
「いえいえ困ります。十分なお代を教会の方からは頂いております。ですから、なんとか今少しお待ちいただければ・・・」
そうやって押し問答と平身低頭を数度繰り返した結果、聖職者はようやく諦めたのか、こちらを振り返り振り返りしつつ帰ってくれた。
「・・・疲れた」
そういって、事務所のソファに座り込む。
「お疲れさま。はい、お茶。熱いから気を付けてね」
そう言って、サラが熱いハーブティーを淹れてくれる。
仕事で使う熱源が多いので、いつでも熱いお湯が使えるのは、革通りにある工房のいいところだ。
しばらくカップを両手で覆い、その熱をありがたく感じつつも、何とかしないといかんな、と思いをめぐらせる。
本日は22:00にも更新します




