第212話 守護の靴の印の護り方
剣牙の兵団が管理している守護の靴の印の現状について、俺が説明してもいいのだが、それでは組織は育たない。
説明機会を含め、できるだけ権限移譲をしていく必要がある。
「キリク、説明できるか?」
と会議に参加している剣牙の兵団所属の護衛であるキリクに説明を投げてみる。
「ええ!?俺ですかい?」
とキリクは急に自分が発言を求められたことに驚いたようだ。
「ああ、団の事情なんだから説明できるだろう?不足があれば俺が補足する」
説明をさせる、というのは当事者意識を持たせるための第一歩だ。
それに、キリクは短気ゆえの暴力で、実家の商家を追い出されて剣牙の兵団に入団した変わり種だが、幼少の頃から一応の帳簿つけの訓練をしてきたと言うし、最近は俺と行動を共にすることで様々な情報やものの見方を得ている筈だ。
団長のジルボアと会社の連絡役も務めている。
軍隊においては、連絡役は最優秀の将校が担うもので、ボンクラには務まらない職種である。
そんなわけで、この短気で手足が長く筋肉の塊のような男にも、実は相当の知性を期待してもいいと、俺は思っていた。
「そうすか・・・。んじゃあ、説明させてもらいますが、言葉使いとかは、ちっとあれなんで勘弁してください」
「お前さんに貴族様みてえな言葉使いができるなんて、誰も期待しとりゃせんわ」
と、ゴルゴゴが擁護するように煽る。
「そうそう。ムリムリ。いいから、とっとと話しなさいよ!」
とアンヌも容認するように煽る。
キリクは2人を睨みつけながら、精一杯丁寧に話し始める。
「剣牙の兵団は、守護の靴を全員が履いてます。その靴には印がついてますが、守護の靴以外の靴には印はいれさせません。剣牙の兵団の印を勝手に使うやつがいたら、冒険者ならすぐにわかります。兵団の入団希望者が冒険者には大勢いますんで、印を勝手につけた奴がいる、と教えてくれるんです。そんで、そいつを探し出して、ぶちのめします。そしたら、靴を作った職人も探し出して、そいつもぶちのめします。ぶっ殺すほどのことではないんで、二度とすんな、と脅すだけですがね。脅しなんで、少し作業場とか店舗をぶっ壊すこともあります。
守護の靴を売り出した最初の月は真似する馬鹿が多くて、ぶちのめすのが大変でしたけどね、今は、月にせいぜい2、3人ぐらいですかね」
「貴族様が相手ならどうしてんのさ?ぶん殴って解決、ってわけにはいかないでしょ?」
と、アンヌが尋ねる。
「そん時は団長の出番さ。貴族の屋敷まで大勢で押しかけて、団の活動に賛同してくれる貴族様に献金をお願いするのさ。印を使用する、ってのは、そういうことだろ?そうすると、部下が勝手にやったことだ、ってことになって大体は、金を貰って終わりになる」
と説明を終えたキリクは、俺に向かって確認する。
「こんなところですかね?どうすか?」
俺は頷いて、ミケリーノ助祭に確認を求める。
「どうでしょう?これが規則と罰則の実際です」
話を聞いていたミケリーノ助祭は、何て野蛮な話を聞いてしまったのだ、と眉をしかめていたが、仕方なく頷いた。
「理解は、できました。教会で管理する際の参考にさせていただきます」
そう言いいつつも、彼の表情には苦いものが含まれていた。
本日は22:00にも更新します。




