第21話 足型をとろう
大手に入るか、独立するか。
悩んだ結果、日本人らしく保留することにした。
まずはモノをつくる準備をする。
金のかからないことから始める内に、最初の目算と違うことも出てくるだろう。
「まずは、足型を集めるか」
「足型?ってなに」
この世界には、靴のコンセプトが恐ろしく遅れている。
元の世界でも19世紀にフェラガモさんが科学的なアプローチで
靴を作り始めるまで靴の左右やアーチはなかったらしいから、
別に不思議なことではない。
高い靴を買うのは中上流階級の連中だけだし、そいつらは長距離を歩かない。
庶民はサンダルか裸足だ。
要するに、長距離を快適に歩ける丈夫な靴、というニーズがなかったのだ。
「服の型紙みたいなもんだよ」
「型紙って何?」
そこからか。確かに紙は高価だ。3等街区の服屋が持っているとは思えない。
服に関心がなかったから、これまで特に意識はしていなかったが
服飾技術にも相当な違いがあるのかもしれない。
サラが知らないだけだといいのだが。
「人の足を、こうやって炭棒で木板に写すのさ。
上から見た形と、横から見た形を囲んで書く。
右足と左足を別々に写し取る」
「その数を集める。100人分は欲しいな。
そうして、靴の形とサイズを決める。
試作品は1サイズだけ作る。一番、多いやつに合わせる」
「さいわい、サンプルには困らない。
買い物ツアーで案内した連中に、ついでに足型を取らせてもらうさ。
靴を販売したときに、割引する約束でね」
「多分、その足型をとる活動自体が宣伝活動にもなるんじゃないかな。
噂をバラ撒くんだ。
ケンジが、何かスゴイ靴を作ろうとしてるってな」
「もう、あんたには呆れたわ・・・」
と、サラは今日、何度目かになるため息を深々とついた。




