第196話 入札の利益
そうして入札は、多少のトラブルはありつつも滞りなく行われたわけだが。
「利益が多すぎるな・・・」
俺は金貨と銀貨の山を前に、唸っていた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
街間商人達の熱気は凄まじく、入札合戦は殺気を帯びていた。
オークションのように価格を吊り上げたいわけではないので、札に価格を書いて入札する、という方式を取ったのだが、偏りや突発事故に備えて、1回入札で1位から10位を決定するのでなく、10回入札で1位を決定するという方式にしたのだ。
そうすれば、書き方のミスや大きく間違った金額などで脱落する商人を減らせると考えたからだ。
だが、ミスが減るということは、値付けが正常に行われるということである。
そうして、守護の靴の値付けが市場で正常に行われた結果が、目の前にある輝く財産となっているということだ。
この利益を独占していたのでは、グールジンが羨ましがられるのも無理はない。
「ふえー・・・すっごいねえ・・・」
サラが例によって、金貨の山を目の前にして、瞳を金貨に劣らず輝かせている。
「いやあ、全くだぜ」
大金を扱うので、剣牙の兵団で警護をしていた護衛のキリクも同じ感想のようだ。
こいつも商家出身だから、ある程度の金銭感覚はある。
たった小一時間の入札の結果として、先払いで金貨を払っていった街間商人の勢いに驚きがあるのだろう。
そう、街間商人達は先払いで金貨を置いて行ったのだ。
俺としては靴製作の1足あたり卸価格である大銅貨5枚、なんなら原価の大銅貨1枚を100倍にした金額だけを預かり金としても良かったのだが、それは広告宣伝を担当するアンヌと、株主であるジルボアに止められた。
止められた、というか、怒られた。
「あんたねえ、高いものを売るんだから、その卑屈な売り方やめなさい!」
「全くだ。お前は自分の作ったものの価値を、もう少し知るべきだ」
卑屈な売り方、というのは随分な表現だが、言いたいことはわかる。
守護の靴は、まだまだ品薄の高級品なのだ。
市場価格と言うのは正直なもので、今、自分の作ったものがどれだけ求められているのか、それが値段となって表れる。
自分がどれだけ良いと思って丹精込めて作っても、客に求められなければ高くは売れないし、客に求められていれば原価に関係なく、ある程度の価格はつく。
要するに、守護の靴、という製品は、この世界で高級品として広く支持されているということだ。
同時に、まだまだ供給する数が不足しているということでもある。
「ええ?また使っちゃうの?こんなに稼いだのに!」
「その利益を投資して、守護の靴の供給を増やせ、ということだろう。そう思えばいい」
今後の資金の使い方については、アンヌとジルボアでは全く違うようだが、ジルボアの言うとおりだ。
生産数量を劇的に増やすために、今は手元に資金が必要だ。
街間商人が仕入れた守護の靴を売り渡す相手は、別の街の冒険者もしくは貴族だろう。
外の資金を使い、この街の駆け出し冒険者のために投資すると思えばいい。
そうして、会社の利益は、この月から3倍になった。
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